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Commentary

中国の積極的な「仲介外交」とその大きな限界
イラン・サウジ国交回復に成功、中東和平は失敗

青山瑠妙
早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授
国際関係
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今年3月、中東で覇権を争ってきたイランとサウジアラビアの関係が正常化した。その舞台裏では中国による仲介外交があった(写真:designer491/PIXTA)
今年3月、中東で覇権を争ってきたイランとサウジアラビアの関係が正常化した。その舞台裏では中国による仲介外交があった(写真:designer491/PIXTA)

 中国は、サウジアラビアにとってもイランにとっても最大の貿易相手国である。中国とサウジアラビアの協力関係はエネルギーのみならず、投資、ハイテク技術、司法、教育、メディアなど多くの分野で推進されている。一方、中国とイランは2021年に25年間の包括的戦略協定を結び、政治、外交、経済関係の強化を図った。そうした中で、2023年8月に、サウジアラビアとイランがそろって、中国主導のBRICSに新規加盟したのである。

 多くのメディアは中東地域での中国の影響力が今後さらに高まり、アメリカの影響力は低下するであろうと予測している。しかしながら、中国政府はこうした見立てを有しておらず、今後の中東情勢を決して楽観視していない。中国にしてみれば、ここ3年の間にロシア、インドなどの域外大国も中東地域への影響力を浸透させており、中東諸国は今、アメリカ、EU、ロシア、そして中国という4極で新たな均衡点を探っている。経済分野で中国は優勢に立っているが、安全保障分野においてはアメリカが依然として支配的な立場を占めている。中東地域で数十の軍事基地を有しているアメリカの影響力は無視できない。

 以上のように、2016年以降中国は中東地域に接近し、サウジアラビア、イランとのそれぞれの関係を同時に強化した結果、対立してきた両国の仲介外交に成功した。アメリカが中東への関与を限定的なものにシフトする中で、中国はその影響力を拡大させつつあるのは確かであるが、しかしながら中東地域での中国の影響力は極めて限定的である。

パレスチナ和平の仲介は不発に終わった

 中国がイランとサウジアラビアの外交関係正常化を仲介したことを受け、世界から中国の仲介外交への期待が高まったが、中国自身も一層力を入れようとしている。

 パレスチナ問題は中東地域のホットイシューである。中国は1967年以降一貫してパレスチナの独立を支持しているが、最近になって習近平国家主席は「中国は積極的な役割を果たす」と発言し、仲介外交への意欲を見せた。この発言を受け、前外交部長である秦剛も中国がイスラエルとパレスチナとの和平交渉を仲介したいと表明した。

 パレスチナは中国の仲介を歓迎し、駐中国パレスチナ大使のファリズ・メダウィは中国の仲介に期待を寄せる発言をしている。中国はイスラエルのネタニヤフ首相に訪中の非公式要請を行ったが、イスラエルはパレスチナとの和解交渉に難色を示し、代わりにサウジアラビアとの関係を仲介するよう中国に要望を出したという。

 結局のところ、パレスチナ問題での中国の仲介努力は不発に終わった。中国は国連の場でアラブ首長国連邦やフランスとの協力でパレスチナ問題の平和解決に向けて動いている。

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