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Commentary

中国の積極的な「仲介外交」とその大きな限界
イラン・サウジ国交回復に成功、中東和平は失敗

青山瑠妙
早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授
国際関係
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今年3月、中東で覇権を争ってきたイランとサウジアラビアの関係が正常化した。その舞台裏では中国による仲介外交があった(写真:designer491/PIXTA)
今年3月、中東で覇権を争ってきたイランとサウジアラビアの関係が正常化した。その舞台裏では中国による仲介外交があった(写真:designer491/PIXTA)

 サウジアラビアがシーア派の聖職者を処刑したことで、2016年1月にイランとサウジアラビアは国交を断絶した。2021年以降、両国は関係回復に向けて協議を重ねた。アメリカのみならず、イラク、オマーンなどの国々も両国の関係改善に向けて仲介役を買って出たが、成功につながることはなかった。

 実は日本もイランとサウジアラビアとの仲介に意欲を示した時期があった。安倍晋三元首相は両国の対立に関し、日本がサウジアラビアに加えてイランとも長年良い関係を維持してきたことから、「中東で日本ならではのかじ取り」ができると語っていた(注1)

 残念ながら日本は仲介外交の成功を収めることができなかったが、安倍元首相の指摘どおり、仲介外交は対立している双方との良好な関係があって初めて成り立つものである。

「大周辺」外交の要に位置する中東諸国

 中国が中東諸国に接近したのは比較的最近の出来事である。2016年1月3日にサウジアラビアとイランは外交関係を断絶したが、その約2週間後に習近平国家主席は対立するこの2つの国を歴訪し、両国と全面的戦略的パートナーシップを樹立した。

 中国は一帯一路構想を推進するため、中東諸国に対する外交攻勢を強めた。サウジアラビア、イラン、オマーン、イラク、クウェートは中国の石油輸入の42.9%(2021年)を占めているだけに、中東諸国は中国のエネルギー安全保障にとって極めて重要である。2013年に一帯一路構想が打ち出されてから、中国と国境を接する国々(「小周辺」)だけではなく、一帯一路構想の沿線地域となる「大周辺」外交の重要性が中国で提起された。こうした政策の流れの中、アジア、欧州、アフリカを連結する中東諸国は中国大周辺外交の要であり、その重要性がさらに増した。

 アメリカはトランプ政権後期以降、中東地域から戦略的な撤退を進めるようになったが、中国はその力の真空に影響力を浸透させてきた。アラブ諸国のうち、12カ国が中国と全面的戦略関係を結んでおり、15カ国がAIIB(アジアインフラ投資銀行)のメンバーであり、14カ国が中国と「デジタル安全協力イニシアティブ」を締結したという(注2)

 そうした流れの中で、中国はサウジアラビア、イランとの各関係を深化させている。アラブとイスラム世界で重要な役割を果たし、国際秩序の多極化を目指すサウジアラビアは、中東地域での中国の重要な戦略的パートナーとして位置づけられている。他方、西側諸国と対立関係にあるイランについては、中国はほめたたえることを避けている。それでも、イランと西側諸国とのぎくしゃくした関係は中国に戦略的なチャンスをもたらしているという論調がオフィシャルメディアでも広く見受けられる。

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