Commentary
台湾「総統選・立法院選」民意はどこにあるのか
台湾はどうあるべきか、台湾アイデンティティとは何か
台湾の総統選・立法院選が1月13日(土)に迫っている。日本のメディアでもさまざまな論評がなされるであろう。13日前後は、日本の台湾専門家の大半が台湾の現地にいることが予測されるので、メディア、とくにテレビでの台湾専門家の登場は限られるかもしれない。今回の選挙については台湾の将来を決める選挙だという言い方もあるが、台湾の選挙民たちのバランス感覚などさまざまな要素が絡んでいる。現在の経済や社会政策も関連している部分があるが、たとえば民進党政権支持者であれば、経済や社会政策にも肯定的評価をしている面があり、投票行動の要因としてみるべきかどうか評価が難しい。現在の蔡英文(ツァイインウェン)政権に対する評価も同様で、民進党支持者(固定支持者が3割前後)であれば肯定的になるという傾向が顕著だ。
新年に入り、総統選挙の結果は予測しがたい事態になっている。与党民進党の頼清徳(ライチンデァー)候補が優勢であることは変わりないが、支持率では伸び悩んでいる。台湾の有権者が民進党を長期政権にすることに対して(バランス感覚からくる)忌避感があるとも言われる。そのため無党派層の投票行動いかんでは野党国民党の侯友宜(ホウヨウイー)候補が勝利する可能性がないわけではない。第3の候補者である民衆党の柯文哲(クーウェンヂャー)候補の支持率も、野党連合の形成失敗後下がり続けたが、ようやく下げ止まった。
国会議員選挙に当たる立法院委員選挙のほうは、与党民進党の旗色がかんばしくなく、議席の過半数獲得が危ぶまれている。2016年の選挙で総統、立法院委員の双方においていわば「完全勝利」を成し遂げた民進党だが、2018年、2022年の地方選挙での敗北が響き、立法院委員選挙では厳しい状態だ。他方、国民党が過半数議席を獲得することも難しいと予想されている。そうなれば、第3の政党である民衆党がキャスティングボードを握る可能性もある。
台湾アイデンティティと「中華民国」の要素
中国は台湾の選挙に対して敏感に、かつ強圧的な姿勢を崩していない。「正しい選択を」といった呼びかけが政府レベルからなされ、またグレーゾーンをつうじたフェイクニュースなどがあとを絶たない。1つだけ言えることは、台湾の有権者たちは、この選挙で中国との統一か台湾独立か、ということを決めるつもりで投票するわけではないということだ。台湾の人々は後述するように圧倒的に現状維持、または(やや)独立志向であり、中華人民共和国との統一を望む層は極めて少数である。
台湾社会には、「台湾は台湾である」という台湾アイデンティティが形成されてきている。それを踏まえ蔡英文総統は「中華民国台湾」という概念を提起した。これは李登輝(リーデォンホイ)が述べた「中華民国在台湾」よりも一歩進んで台湾と中華民国とを一体化させた考え方である。ただ、中華民国という言葉を残している点で、いわゆる「台独」とは区別される面がある。民進党の頼清徳候補は、蔡英文の考えを継承しているとするが、理念的には蔡英文よりも「中華民国」を意識しない政治家だと思われている。国民党は蔡英文よりも「中華民国」的な要素を強調することが想定される。
こうした中華民国との関係性を踏まえた「台湾」のありようをめぐる、候補者間の相違点を有権者は意識していよう。これは統一か独立かということではなく、まずは「中華民国」の位置づけの問題であり、その延長上に中華人民共和国との関係性の問題がある。「台湾」を重視する頼清徳候補であれば中華民国ともやや距離があり、だからこそ一層中華人民共和国と距離をとることになるし、国民党の侯友宜候補であれば中華民国を強調するから、結果として馬英九(マーインチウ)政権の時のように対話路線を採用することになろう。
台湾はどうあるべきか、台湾アイデンティティとは何か、ということが今回の投票行動を決める1つの要素になっているということだろう。