トップ 政治 国際関係 経済 社会・文化 連載

Commentary

中国の積極的な「仲介外交」とその大きな限界
イラン・サウジ国交回復に成功、中東和平は失敗

青山瑠妙
早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授
国際関係
印刷する
今年3月、中東で覇権を争ってきたイランとサウジアラビアの関係が正常化した。その舞台裏では中国による仲介外交があった(写真:designer491/PIXTA)
今年3月、中東で覇権を争ってきたイランとサウジアラビアの関係が正常化した。その舞台裏では中国による仲介外交があった(写真:designer491/PIXTA)

 2023年3月10日に、中国の仲介によりイランとサウジアラビア両政府は突如、外交関係の正常化を発表した。同日に北京で、関係回復に関する中国、サウジアラビア、イランの3カ国の共同声明が発表され、そして翌月の4月6日にサウジアラビアとイランの外相は中国の秦剛外相(当時)の前で、大使館の再開などに関する共同声明に署名した。

 このニュースは何重もの意味で世界を驚かせた。中国が仲介外交に乗り出していることは意表を突いた出来事であり、中東で影響力をほとんど有していなかった中国が大きな外交の成功を収めたことにも意外性があった。そしてイランとの関係改善について、サウジアラビアはアメリカに事前にまったく知らせていなかったことも、中東でのアメリカのプレゼンスが低下しているのではないかという議論に拍車をかけた。

ウクライナ和平の仲介外交にも乗り出すか

 イランとサウジアラビアの外交関係正常化を仲介したことを受け、中国は次にロシアとウクライナの仲介にも乗り出すのではないかという憶測が飛び交った。中国のユーラシア事務特別代表である李輝が5月にウクライナ、ポーランド、フランス、ドイツ、ロシアを訪問したが、この一連のシャトル外交はウクライナ問題における中国の仲介の可能性についての期待をさらに膨らませた。

 なぜ中東での中国の仲介外交が成功したのか。中国にとって仲介外交がどういう意味を持つのか。今後の中東外交と仲介外交の動きを理解するためには、中国対外政策を取り巻く内なるダイナミズムから読み解く必要がある。

 サウジアラビアがシーア派の聖職者を処刑したことで、2016年1月にイランとサウジアラビアは国交を断絶した。2021年以降、両国は関係回復に向けて協議を重ねた。アメリカのみならず、イラク、オマーンなどの国々も両国の関係改善に向けて仲介役を買って出たが、成功につながることはなかった。

 実は日本もイランとサウジアラビアとの仲介に意欲を示した時期があった。安倍晋三元首相は両国の対立に関し、日本がサウジアラビアに加えてイランとも長年良い関係を維持してきたことから、「中東で日本ならではのかじ取り」ができると語っていた(注1)

 残念ながら日本は仲介外交の成功を収めることができなかったが、安倍元首相の指摘どおり、仲介外交は対立している双方との良好な関係があって初めて成り立つものである。

「大周辺」外交の要に位置する中東諸国

 中国が中東諸国に接近したのは比較的最近の出来事である。2016年1月3日にサウジアラビアとイランは外交関係を断絶したが、その約2週間後に習近平国家主席は対立するこの2つの国を歴訪し、両国と全面的戦略的パートナーシップを樹立した。

 中国は一帯一路構想を推進するため、中東諸国に対する外交攻勢を強めた。サウジアラビア、イラン、オマーン、イラク、クウェートは中国の石油輸入の42.9%(2021年)を占めているだけに、中東諸国は中国のエネルギー安全保障にとって極めて重要である。2013年に一帯一路構想が打ち出されてから、中国と国境を接する国々(「小周辺」)だけではなく、一帯一路構想の沿線地域となる「大周辺」外交の重要性が中国で提起された。こうした政策の流れの中、アジア、欧州、アフリカを連結する中東諸国は中国大周辺外交の要であり、その重要性がさらに増した。

 アメリカはトランプ政権後期以降、中東地域から戦略的な撤退を進めるようになったが、中国はその力の真空に影響力を浸透させてきた。アラブ諸国のうち、12カ国が中国と全面的戦略関係を結んでおり、15カ国がAIIB(アジアインフラ投資銀行)のメンバーであり、14カ国が中国と「デジタル安全協力イニシアティブ」を締結したという(注2)

 そうした流れの中で、中国はサウジアラビア、イランとの各関係を深化させている。アラブとイスラム世界で重要な役割を果たし、国際秩序の多極化を目指すサウジアラビアは、中東地域での中国の重要な戦略的パートナーとして位置づけられている。他方、西側諸国と対立関係にあるイランについては、中国はほめたたえることを避けている。それでも、イランと西側諸国とのぎくしゃくした関係は中国に戦略的なチャンスをもたらしているという論調がオフィシャルメディアでも広く見受けられる。

 中国は、サウジアラビアにとってもイランにとっても最大の貿易相手国である。中国とサウジアラビアの協力関係はエネルギーのみならず、投資、ハイテク技術、司法、教育、メディアなど多くの分野で推進されている。一方、中国とイランは2021年に25年間の包括的戦略協定を結び、政治、外交、経済関係の強化を図った。そうした中で、2023年8月に、サウジアラビアとイランがそろって、中国主導のBRICSに新規加盟したのである。

 多くのメディアは中東地域での中国の影響力が今後さらに高まり、アメリカの影響力は低下するであろうと予測している。しかしながら、中国政府はこうした見立てを有しておらず、今後の中東情勢を決して楽観視していない。中国にしてみれば、ここ3年の間にロシア、インドなどの域外大国も中東地域への影響力を浸透させており、中東諸国は今、アメリカ、EU、ロシア、そして中国という4極で新たな均衡点を探っている。経済分野で中国は優勢に立っているが、安全保障分野においてはアメリカが依然として支配的な立場を占めている。中東地域で数十の軍事基地を有しているアメリカの影響力は無視できない。

 以上のように、2016年以降中国は中東地域に接近し、サウジアラビア、イランとのそれぞれの関係を同時に強化した結果、対立してきた両国の仲介外交に成功した。アメリカが中東への関与を限定的なものにシフトする中で、中国はその影響力を拡大させつつあるのは確かであるが、しかしながら中東地域での中国の影響力は極めて限定的である。

パレスチナ和平の仲介は不発に終わった

 中国がイランとサウジアラビアの外交関係正常化を仲介したことを受け、世界から中国の仲介外交への期待が高まったが、中国自身も一層力を入れようとしている。

 パレスチナ問題は中東地域のホットイシューである。中国は1967年以降一貫してパレスチナの独立を支持しているが、最近になって習近平国家主席は「中国は積極的な役割を果たす」と発言し、仲介外交への意欲を見せた。この発言を受け、前外交部長である秦剛も中国がイスラエルとパレスチナとの和平交渉を仲介したいと表明した。

 パレスチナは中国の仲介を歓迎し、駐中国パレスチナ大使のファリズ・メダウィは中国の仲介に期待を寄せる発言をしている。中国はイスラエルのネタニヤフ首相に訪中の非公式要請を行ったが、イスラエルはパレスチナとの和解交渉に難色を示し、代わりにサウジアラビアとの関係を仲介するよう中国に要望を出したという。

 結局のところ、パレスチナ問題での中国の仲介努力は不発に終わった。中国は国連の場でアラブ首長国連邦やフランスとの協力でパレスチナ問題の平和解決に向けて動いている。

 ウクライナ戦争がこう着状態になる中で、中国の仲介に期待を寄せる声は絶えない。中国も特使を派遣するなど、仲介外交を試みる姿勢を見せた。しかしウクライナ問題で中国の仲介外交が動き出すことはないであろう。そもそも中国はロシア寄りの立場をとっており、ウクライナとロシアの主張には隔たりが大きく、その着地点を探ることは難しい。

 しかし中国は8月5日から6日にかけてサウジアラビアで開かれたウクライナが提唱する和平案について協議する会合に参加した。中国がサウジアラビアと親密関係を有していることから、その参加を促すために、アメリカがサウジアラビアを開催地に選んだともいわれている。この会合にロシアは参加しなかったが、世界42カ国が参加した。中国は従来の立場を繰り返しただけに終わったが、国際社会でのプレゼンスをにらんで中国は会合への参加を選んだ。

中国の仲介外交に垣間見える「大きな限界」

 パレスチナ問題でも、またウクライナ問題でも、中国の仲介外交は動き出しても成功する可能性は極めて低い。そもそも中国の仲介外交の歴史が浅く、仲介外交のスタイルも西側諸国と大きく異なっている。スイスやドイツなどの西欧諸国にとって調停外交はなじみ深い外交手段であり、アメリカの最初の調停外交は1905年のポーツマス条約の時である。他方、中国が初めて調停外交に乗り出したのは2000年代初頭である。

 西側諸国と異なり、中国の調停外交はリスク回避の姿勢が目立ち、現状維持を目指している(注3)。こうした特徴から、対立双方がもともと和解の流れにあるサウジアラビア・イランのようなケースは成功しやすい。しかし、パレスチナとイスラエル、ロシアとウクライナのように双方が著しく対立している場合は、中国の仲介外交は不発に終わる可能性が高い。

 このように、中国の仲介外交には大きな限界がある。それでも、国際社会でのプレゼンスを高めるために、今後も国際ないし地域の紛争問題に中国は積極的に関与していくであろう。

(注1)
安倍首相の会見要旨「中東で日本ならではのかじ取り」日本経済新聞 (nikkei.com) https://www.nikkei.com/article/DGXMZO50219390W9A920C1EAF000/

(注2)
卡塔尔学者:“一带一路”倡议对中东地区至关重要 中国日报网 (chinadaily.com.cn) https://china.chinadaily.com.cn/a/202305/10/WS645b6144a310537989373957.html

(注3)
「中国の調停外交」青山瑠妙
01-10.pdf (jiia.or.jp)

ご意見・ご感想・お問い合わせは
こちらまでお送りください

Copyright© Institute of Social Science, The University of Tokyo. All rights reserved.