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Commentary

石破茂新政権の成立と日中・日台関係
本格始動に至るまでの課題と関門

川島真
東京大学大学院総合文化研究科教授
国際関係
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石破政権にとって、長きにわたった清和会中心の自民党政治からの脱却は容易なことではない。まずは岸田政権の積み残した諸課題に着実に取り組みつつ、本格始動に備えることになるだろう。写真はラオスのビエンチャンで会談前に握手する石破首相(左)と李強首相。2024年10月10日(共同通信社)
石破政権にとって、長きにわたった清和会中心の自民党政治からの脱却は容易なことではない。まずは岸田政権の積み残した諸課題に着実に取り組みつつ、本格始動に備えることになるだろう。写真はラオスのビエンチャンで会談前に握手する石破首相(左)と李強首相。2024年10月10日(共同通信社)

台湾の頼清徳政権の課題

石破政権の成立によって戸惑っているのは台湾の頼清徳政権ではないだろうか。台湾の民進党政権、とりわけ頼総統自身、副総統時代から特に清和会系の政治家との関係を重視してきた。安倍元総理との関係も深く、奈良での銃撃事件に際しては副総統でありながらただちに来日し、安倍家を訪れている。その後も、萩生田光一議員ら清和会系の政治家との関係を深めた。無論、総裁選以前に石破議員が台湾を訪問しているように、数多くの自民党の議員が台湾を訪問して、当時の蔡英文総統や頼副総統と会見している。しかし、頼総統周辺と清和会系とのつながりは、超党派の議員連盟である日華懇(日華議員懇談会)よりも強い状態にあったと考えられる。ところが、清和会系の政治家に政治資金問題が発生してから状況が変わり、今回の石破政権では頼総統の「友人たち」の顔ぶれはほとんど見られないのではないか。

自民党の特定派閥、あるいは議員グループとの関係に依存した日台関係の脆弱(ぜいじゃく)性はつとに指摘されてきた問題である。行政レベルの、それも高レベルの継続性のある制度に基づく関係性、また軍事安全保障、経済安保に限定されない広範な領域の行政対話の制度化実現など、日台関係にはまだまだ多くの課題がある。民間どうしの交流が極めて活発なだけに、政治、行政レベルの日台関係の再構築が急務だ。これもまた石破政権の課題になる。

だが、石破新政権の外交ビジョンに「台湾」がどれほどの位置を占めているのか不明だ。安倍政権には台湾政策のビジョンがあったし、菅政権は台湾とのワクチン協力を実施し日台間の信頼関係を深めた。だが、岸田政権の時期には、日台議員交流も活発で、ウクライナ戦争後に「台湾有事論」はじめ多くの議論が巻き起こり、同盟国、同志国の間で「台湾海峡の平和と安定」という言葉が一層重視されるようにはなったものの、日台政府間関係それ自体に大きな進展があったというわけではない。果たして石破新政権に台湾との関係に関する絵が描かれているのだろうか。

石破茂政権にとっての「三つの関門」

ただ、石破政権が本格的に始動し、その外交政策の輪郭が浮かび上がるのには少し時間がかかりそうだ。11月のアメリカ大統領選の結果次第では日米関係の再調整が必要になるし、総裁選で敗れた勢力の巻き返しも十分に考えられる。また、そもそも石破政権が本格的に始動するには三つの関門を無事にくぐり抜けねばならないと思われる。その第一は10月末の衆議院選挙であり、第二は2025年1月の通常国会での議論、そして第三に2025年夏の参議院選挙だ。どのラインが「合格点」なのかは今後定まろうが、この三つの関門を通過することができれば、本格始動に至ることになる。そもそもそれが可能なのか。またそれが可能であるとするならば、その過程でどのような対中、対台湾政策を含む対外政策が形成されるのか。

長きにわたった清和会中心の自民党政治からの脱却は容易なことではない。何を継承し、何を修正、転換していくのか。まずは岸田政権の積み残した諸課題に着実に取り組みつつ、三つの関門をくぐり抜け、本格始動に備えることになるのであろう。

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