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Commentary

台湾「総統選・立法院選」民意はどこにあるのか
台湾はどうあるべきか、台湾アイデンティティとは何か

川島真
東京大学大学院総合文化研究科教授
国際関係
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台湾総統選候補者のテレビ討論会会場で記念撮影する(左から)民主進歩党の頼清徳氏、国民党の侯友宜氏、台湾民衆党の柯文哲氏=2023年12月30日、台北(中央通信社=共同)
台湾総統選候補者のテレビ討論会会場で記念撮影する(左から)民主進歩党の頼清徳氏、国民党の侯友宜氏、台湾民衆党の柯文哲氏=2023年12月30日、台北(中央通信社=共同)

 最後に中国との関係を考える材料となる図を挙げておこう。これは台湾の人々の統一、独立に対する考えを示したものだ。青(永遠に現状維持)、黒(現状維持をしたのちに決定)、緑(やや独立)、茶色(やや統一)、濃い緑(すぐに独立)、赤(すぐに統一)、エンジ色(無回答)となっている。

台湾民衆の統一・独立に関する立場(1994-2023)

 ここで重要なことは、青と黒を足した「現状維持」派が6割を超えているということである。これに緑の「やや独立」を加えれば8割を超える。これが台湾社会の主流だということになるだろう。赤の「すぐに統一」は2パーセントにも満たず、茶色の「やや統一」を加えても8パーセント以下である。ただ、濃い緑の「すぐに独立」も5パーセント以下であり、緑の「やや独立」を加えても25パーセント強にすぎない。

 すなわち台湾社会は、「やや独立よりの現状維持」に重心があるのであり、そもそも「統一か独立か」などという構図そのものは存在していない、ということになる。もし、総統候補者や政党が「統一」を掲げれば、わずか7パーセント強しか支持しないということになる。

中国の台湾政策と日本の役割

 中国は目下、台湾統一を目標にして軍事力を増強し、それを台湾社会に演習などをつうじて見せつけつつ、フェイクニュースやサイバー攻撃などのグレーゾーン攻撃を行っている。さらに実質的な経済制裁を加えるなどして圧力を高め、他方で経済交流などをつうじた「融通」政策を進めて、台湾社会が中国との統一を望むように仕向けている。確かに、2017年から18年にかけての「恵台政策(台湾に恵を与える政策)」や蔡英文政権への反発によって多少「やや統一」が増えたことはあるが、2019年1月の習近平による武力統一の可能性への言及、香港の民主化運動弾圧、コロナ禍における台湾への措置などをめぐって、台湾の中国認識は以前以上に悪化している。

 そのため、台湾社会の内部に影響を与えて統一に向かわせることの難易度は高い。問題となるのは、(もちろん突発的事故や連鎖的事態の進行もあるが)台湾社会を統一に向かわせることが難しいという判断を中国政府がしたときだろう。そのときには軍事的圧力を高める政策を採用することになる。

 中国政府は、選挙の結果が出た後の勝者の発言、また5月20日の総統就任式での新総統の発言にまずは注目しよう。そこでは1992年コンセンサスの取り扱いや中国との関係性をいかに表現するのかということが問われる。ただ、問題なのは中国が自らの視線、価値観に基づいて独自に物事を定義し、判断してしまうということだ。

 どのような結果が出ようとも、「東アジアの平和と安定」のために、日本も隣国として何ができるのか考えるべきであろう。その際には、アメリカとの連携が不可欠であること、またアメリカ大統領選挙の結果も台湾海峡問題をはじめこの地域に大きな影響を与えることも考慮すべきだ。(1月5日脱稿)

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