トップ 政治 国際関係 経済 社会・文化 連載

Commentary

再エネ大国・中国――脱炭素への超えがたい壁
COPは言葉遊びをやめて現実的な対策を議論せよ

堀井伸浩
九州大学経済学研究院准教授
経済
印刷する
2023年12月13日、アラブ首長国連邦のドバイで開かれたCOP28で文書採択を喜ぶ各国の交渉官たち(共同通信IMAGE LINK)
2023年12月13日、アラブ首長国連邦のドバイで開かれたCOP28で文書採択を喜ぶ各国の交渉官たち(写真:共同通信)

 そこで、石炭比率が一貫して低下し始めた2011年から2022年にかけて(この期間には石炭消費量が前年比で減少した2014年~2016年が含まれる)、エネルギー需給の推移を確認してみよう。

 まずこの期間、中国のエネルギー需要は40%、合計15億3957万トン(標準炭換算、以下同じ)増加、年率では平均3.1%の成長率であった。エネルギー源別にみると、非化石エネルギーはエネルギー需要増加全体の32.6%をカバーした。一方、石炭は26.3%にとどまったことで石炭の比率は低下し続けたことになる。しかし石油、天然ガスをみると、それぞれエネルギー需要増加分の24.5%、16.5%を供給し、石炭と合わせた化石燃料全体では7割近くを占める。

 すなわち再生可能エネルギーを含む非化石エネルギーでは、2010年代以降の中国のエネルギー需要の増加を支えることができなかったということだ。非化石エネルギーは年平均8.9%と非常に高い成長率であったにもかかわらず、である。

巨大なエネルギー需要を再エネだけでカバーできない

 結局のところ、非化石エネルギーはこれだけの高成長を遂げてきた22年時点においてさえ、1次エネルギーの15.3%をカバーするにすぎず、非化石エネルギー、とりわけ小規模電源である風力や太陽光といった再エネが中国のエネルギー需要の8割以上を支える化石燃料を代替するのは一朝一夕にいかないということだ。ちなみに2023年も速報値ながら再エネの新規導入量は230GWと2022年の倍近くの伸びで史上最大を更新したとされ、欧州全体の75GW、米国で40GWと比べてまたケタ違いであったが、中国の石炭消費量は前年比4.9%と高めの成長となった。これほどの再エネの成長でも石炭をはじめ、化石燃料の消費量を削減することはできないというのが現実である。

 いくら再エネが急拡大しても化石燃料はおろか石炭の消費量すら削減できない理由として、まずは中国のエネルギー需要規模が巨大であることがあろう。2011年~2022年の期間、非化石エネルギーはエネルギー需要全体を6ポイント近く上回って成長したが、2011年時点でエネルギー需要全体に占める比率は8.4%にすぎず、出発点となる2011年の消費量が小さすぎた。10年余りで15.3%を占めるまでに成長したことは相当に高い成長スピードだといえるが、非化石エネルギーの7倍近い規模であるエネルギー需要全体が年率3%で成長した場合、現状でそれをすべて再エネでカバーしようとするならば20%以上の成長が必要となるわけで、これはなかなか容易ではない。

 また再エネが自然条件の変化で出力が変動して(間欠性)制御できない運転特性であることが指摘できる。太陽光は雨天時や日没後は出力がほとんどなくなるので当然であるが、再エネの出力低下時には石炭火力あるいはガス火力といった出力を柔軟に制御できるカバー電源が必要となる。稼働率をみると風力は25.5%、太陽光は14.6%にすぎず、原子力の89.1%はもちろんのこと、火力の50.8%、水力の41.3%と比べても大幅に低い。再エネが動いていない時間がこれほど長いのにエネルギーへの需要は絶えず存在するわけで、その時間はカバー電源が供給を担うしかない。蓄電池は選択肢ではあるが、現状では高コストすぎて火力の運転による対応に軍配が上がる。

1 2 3 4

Copyright© Institute of Social Science, The University of Tokyo. All rights reserved.