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Commentary

再エネ大国・中国――脱炭素への超えがたい壁
COPは言葉遊びをやめて現実的な対策を議論せよ

堀井伸浩
九州大学経済学研究院准教授
経済
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2023年12月13日、アラブ首長国連邦のドバイで開かれたCOP28で文書採択を喜ぶ各国の交渉官たち(共同通信IMAGE LINK)
2023年12月13日、アラブ首長国連邦のドバイで開かれたCOP28で文書採択を喜ぶ各国の交渉官たち(写真:共同通信)

 そして再エネにせよ、非化石エネルギーにせよ、出力されるのは電力という形態になるが、工業国においては電力以外に、化石燃料を直接利用する熱や(鉄鋼・化学・コークス製造業などの)原料としての用途も存在する。中国の場合、こうした需要も大きく、発電に消費される石炭は全体の55.8%にすぎず(この中には暖房用など熱供給事業者による消費を含む)、残る4割強は製造業企業による熱需要や原料利用で石炭が消費されている。この4割強の石炭需要を非化石エネルギーで代替するのは困難であろう。

 以上の点を踏まえれば、中国が近い将来の「化石燃料からの脱却」にコミットすることは相当困難であることは明白だろう。しかし中国は2060年のカーボンニュートラル実現を国際的にコミットしているので、化石燃料をいつまでもそのまま使い続けるといっているわけではない。また2030年までにCO2排出量をピークアウトさせるとの目標も掲げているので、2030年以前には化石燃料の低炭素化(脱炭素化ではない)に着手することもきちんと計画ずみだと考えられる。

 COPではこうした事情を汲むことなく、欧米諸国が「化石燃料からの脱却」を決定文書に押し込もうと圧力をかけ、跳ね返された後、phase out か、phase downか、あるいはtransition awayか、などと言葉遊びを繰り広げているもので、実に不毛である。

COPは中国に対するアプローチを見直すべきだ

 中国の経済社会に過度な打撃を与えずに最終的に2060年のカーボンニュートラル実現に至る、現実的な脱炭素スケジュールとそのために有効な国際協力についてこそCOPで話し合う価値があるものだろう。その結果、欧米諸国が望んでやまない目標の前倒しも可能になるかもしれない。中国が現実的な裏づけなしに目標の前倒しに応じることはこれまでの交渉の経緯をみる限りなさそうで、欧米諸国がこれまでCOPで展開してきた外堀を埋めて圧力で目標を上方修正させようとするアプローチは見直すべきだ。

 なお、化石燃料、とりわけ石炭を今後どうするかという問題は決して中印両国に限る課題ではない。いま現在は化石燃料を利用していなくとも、今後経済発展を進めていくうえで、安価で安定供給できるエネルギーを必要とする途上国にとっても重要な問題である。

 その意味で、主要7カ国(G7)首脳会議やCOP28でわが国が表明した「多様な道筋による(注:再エネ偏重でないという意)ネットゼロ」、「脱炭素・経済成長・エネルギー安全保障」の同時実現を目指して、火力の低炭素化、ゆくゆくは水素・アンモニア燃焼、あるいは二酸化炭素回収・貯留(CCS)による脱炭素を実現しようとする路線は途上国の現実に合致した対策であると評価できる。その推進のプラットフォームとして、アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)が2023年3月に設立され、COP28閉幕1週間後には首脳会議が開催された。理念ばかりでなく、現実に取り組みが進んでいることは大いに喧伝すべきであるし、現状の加盟国は日本と主にASEAN諸国であるが、そこに中国が加盟すれば世界の気候変動対策を進めるうえで大いに力を得ることになるだろう。

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