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Commentary

中国では「QRコードだけで乗車する人」が9割
北京・上海・深圳――デジタル化で激変した地下鉄&バス①

華金玲
慶應義塾大学総合政策学部訪問講師(招聘)
社会・文化
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上海市地下鉄「東昌路駅」の改札機(右)と、スマホのアリペイから起動した「乗車コード」。コードを手前のガラス面にかざすだけで改札を通過できる(写真:筆者撮影)
上海市地下鉄「東昌路駅」の改札機(左)と、スマホのアリペイから起動した「乗車コード」。コードを手前のガラス面にかざすだけで改札を通過できる(写真:筆者撮影)

 こうして私は2023年夏に北京、深圳、上海、そして秋以降も上海と北京で乗車コードを使った。都市によってウィーチャットの中のミニプログラムであったり、アリペイの中に入っていたりと微妙に違っているのだが、使い始めると、現金を用意して切符を購入する必要がなく、そのまま改札機にかざして通過すればいいので、大変便利だった(編者注:逆に現金しか使えない人には以前よりもかえって不便になっていた。深圳の地下鉄駅の自動券売機は10元札が使えると書いてあったが、実際には受け付けてくれず、5元札も使えたり使えなかったり。問題なく受け付けてくれるのは1元硬貨のみだったが、1元硬貨はかさばる。コンビニに行って、お釣りをもらって1元硬貨を手に入れようとしたら、コンビニの店員から「乗車コード使いなさいよ。便利だよー」と勧められた)。

 なお、2023年5月から北京市では大興空港への空港快速列車の改札で「手のひら認証」による乗車の実証実験を始め、日本のメディアでも報道された。しかし、筆者が同年12月にその列車に乗ったときには、すでに実証実験は行われておらず、どうやら本格導入は見送られたようであった。

 コロナ禍が始まる直前の2019年12月末に北京に出張したときと比べて、社会全体でモバイル決済がいっそう普及し、デジタル化が一気に進んだようである。レストランやスーパー、野菜市場、朝市でさえも現金を使わなくなり、皆がモバイル決済を使って代金を支払っている。地下鉄もバスもすべて乗車コードだけで乗れるようになり、高速鉄道も駅で切符を購入することなく、スマホのアプリで予約・購入しておけば、駅では身分証を改札機にタッチするのみで乗車できるようになっていた。

身分証、医療証、運転免許証もスマホの中に

 現地の友人を見ていると、どこに行くにもスマホ1つしか持たず、身分証や車の鍵、家の鍵、保険証、医療証、運転免許証さえスマホの中に入っているので、カード入れを持ち歩く必要がないのだという。

 私も中国滞在期間中は現金を手元に持たなくても困るようなことは1つもなかった。現金やカード類を一切持ち歩かなくていいというのは大変便利だ。レジの前で待たされたり、返されたお釣りや小銭、クレジットカード、レシートなどを急いでサイフにしまったりする手間がなく、財布をカバンに入れる動作も必要なく、財布の中の整理もしなくて済み、すべてがスマホ1つで完結するのだ。生活の中のいろんな細かな無駄をきれいさっぱり取り除いて、生活そのものがよりシンプルになり、何ともいえぬ解放感と、心地良ささえ覚えた。

北京の乗車コードとBRT(筆者撮影)
北京の乗車コードとBRT(筆者撮影)
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