Commentary
中国の不動産バブルで犠牲になった農民の悲哀
社会的弱者の声を聞く「問題指向的研究」のススメ①
昨今、中国の不動産企業の経営難が大きなニュースになっている。テレビから流れる、建設途中のマンションが放置されたゴーストタウンの映像を見て、私は2013年に訪問した友人の故郷、山東省金郷県羊山鎮を思い出した。
そこでは当時、明代から続く古い家屋を含む約640軒の家屋が取り壊され、15ヘクタールもの収用された土地に「国際軍事観光レジャー地区」(以下、レジャー地区)が建設された。「レジャー地区」の周辺では、古い町並みを再現する計画が進められていたが、実際にできたのは「古く見える」低層のマンション群。江蘇省や浙江省の不動産業者が開発したものだが、なかなか買い手がつかず、空室のまま放置されていた。
農村の土地は地方政府にとって「打ち出の小槌」
先述のとおり、農村の土地は集団所有であり、農民は土地経営請負権を自らの意思で売却したり、抵当に入れたりはできず、農地の転用も厳しく規制されている。ただし、「公共の目的」があれば政府が収用し、集団所有から国有にする手続きを取ったうえで、非農業用地として開発できる。また、企業や個人が収用された土地の権利を取得する場合、土地使用権譲渡金や各種税金を地方政府に支払うことになっている。
要するに、農村の土地は地方政府にとって、財政を支える打ち出の小槌だった。中央と地方の税源配分を明確化した「分税制」の施行(1994年)に従って、これらが地方財政に組み入れられると、地方政府は大量の農業用地を非農業用地に転用した。「土地財政」といわれるように、こうした土地・不動産関連収入が地方財政を支えてきた。そのうえ、「公共の目的」が法律で明確に規定されていないため、多くの地域で乱開発が進んでしまった。
中国政府が推奨する「紅色旅遊(赤色観光)」(共産党政権による建国の歴史を振り返る観光ツアー)の波に乗っかろうとしていたのか、羊山鎮の関係機関が突然電気や水を止め、強面の男たちを派遣し、農民を強制的に立ち退かせてできた「レジャー地区」は、無駄に広い道路や展示物の多くがレプリカという博物館、廃車になった戦車などを並べた屋外展示場だった。
現地の人たちは「農地には1畝(約6.67アール)あたり年間1400元のレンタル料が、宅地には1平方メートルあたり数百元の補償金が支払われたのみで、政府が用意した辺鄙な場所にある移住先のアパートの購入費用にさえ満たなかった」と話していた。私が訪れたのは労働節の連休中だったが、「レジャー地区」の全域を車で回ってすれ違った観光客は20人程度だった。