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Commentary

習近平長期政権が抱えるリスク
競争者・後継者不在の指導部を読み解く

李昊
東京大学大学院法学政治学研究科准教授、日本国際問題研究所研究員
政治
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2022年10月23日、中国共産党第20回党大会を終え、人民大会堂での記者会見に臨む新指導部のメンバー。手前から習近平、李強、趙楽際、王滬寧、蔡奇、丁薛祥、李奇の各氏(写真:共同通信)
2022年10月23日、中国共産党第20回党大会を終え、人民大会堂での記者会見に臨む新指導部のメンバー。手前から習近平、李強、趙楽際、王滬寧、蔡奇、丁薛祥、李奇の各氏(写真:共同通信)

外様幹部への信頼不足と人事の不安定化

 第二のリスクは、第三期政権において、習近平がそれまで直接的な交流が深くないいわゆる外様幹部を重用したことで、十分な信頼関係が形成されていないという問題である。第三期政権において、習近平は直接経歴上のつながりのない若手の幹部を重用している。特に軍需産業、航空宇宙産業関係者の台頭は目覚ましい。しかし、習近平が彼らを深く信用しているとは思えない。典型的な事例は、中央組織部長と中央弁公庁主任の人事だ。通常党大会後すぐに交代するはずが、いずれも遅々として新しい人事が発表されず、2023年春ごろになってやっと決定した。前任の陳希と丁薛祥(ていせつしょう)はいずれも習近平の側近であり、信頼関係が深いのは事実だが、それを理由に人事を遅らせるのは不自然である。しかも、新しい中央弁公庁主任は蔡奇という政治局常務委員であり、この人事も異例である。中央弁公庁主任は中央委員会の日常業務を司(つかさど)る重要役職であり、政治局常務委員が兼任するのは明らかに負担過多である。このような立て続けの異例人事は、習近平がごく限られた一部の部下のみを信頼していることを示す。

 また、2023年に秦剛(しんごう)国務委員兼外交部長、李尚福(りしょうふく)国務委員兼国防部長が解任されたことも、この信頼関係の問題のリスクが顕在化した事例である。秦剛と李尚福は習近平の抜擢(ばってき)を受けて、副総理クラスの高級幹部である国務委員に昇進したものの、わずか半年程度で地位を失った。2024年5月現在、詳細な説明がなく、解任理由は推測せざるを得ないが、秦剛は不倫スキャンダルに伴う「生活作風」(生活における態度・ふるまい)の問題、李尚福は武器調達に伴う汚職腐敗が原因だと報じられている(注3)。李尚福解任に関連して、夏にはロケット軍の司令員と政治委員が同時に交代し、しかも新任人事はロケット軍生え抜き以外から異動したということもあった。ロケット軍の設立は習近平主導の軍改革の目玉だったが、そのパフォーマンスは習近平を満足させられていないようだ。

 2022年の党大会において、人事面で完全勝利を遂げた習近平は、自らが抜擢した外様幹部を信用できずにいる。習近平の圧倒的な権力が確立されておりながら、国家指導者に関わる人事がこのように不規則、かつ不安定な状況がすでに発生している。このような現象は、人事権が最高指導者個人に集中する個人支配体制においては往々にして発生する。これは今後の習近平政権が長期にわたって抱える大きなリスクとなるだろう。

内部分裂リスクと後継者問題

 もう一つの重要なリスクは、習近平勢力で内部分裂が生じるリスクである。習近平は巨大な勢力を築き上げた。しかし、習近平の追従者たちは習近平に忠誠を誓うという点に共通性があるのみだ。現在、福建系、浙江系、上海系の三つのグループが習近平を支える中心的な勢力であるが、彼らが互いに協力的な関係にあるとは限らない。

 毛沢東時代、1950年代半ばには、高崗(こうこう)が毛沢東の意向を忖度(そんたく)して劉少奇批判を展開した。文化大革命中には、林彪らのグループと江青ら文化大革命推進勢力が対立した。これらは毛沢東に対する忠誠合戦の例である。毛沢東の権威は揺らがないものの、独裁者の存在は党内闘争の沈静化を意味しない。同じ状況が習近平勢力内で生じるリスクは十分考えられる(注4)。

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