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Commentary

福島原発「処理水」問題における中国の宣伝政策
8月に対日批判を強め、9月にトーンダウンした理由

川島真
東京大学大学院総合文化研究科教授
国際関係
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9月6日、ジャカルタでのASEANプラス3の首脳会議に臨む中国の李強首相(左)と岸田首相。立ち話を行い、処理水について双方の言い分を伝え合ったという(写真:共同通信IMAGE LINK)
9月6日、ジャカルタでのASEANプラス3の首脳会議に臨む中国の李強首相(左)と岸田首相。立ち話を行い、処理水について双方の言い分を伝え合ったという(写真:共同通信IMAGE LINK)

しかし、この宣伝の内外における効果には限界があった。韓国、また台湾の国民党なども中国とは同調せず、南太平洋の島嶼国でもわずかにソロモン諸島が中国に賛同しただけであった。日本国内でも、風評被害を懸念する声や処理水放出に反対する動きはあったが、大きな社会運動となるには至らなかった。他方、中国国内では中国沿岸部の海産物さえ買い控える傾向が生じ、9月に入ると中国は対日批判を弱めた。

中国の対日批判が全面的なものではなくなったと感じさせられたのは、9月3日であった。この日は、習近平政権になってから公的に定められた「中国人民抗日戦争と反ファシスト戦争勝利記念日」である。だが、この日の行事には習近平はもとよりトップ7も姿を見せず、宣伝部部長で政治局委員である李書磊が現れただけであった。全面的な対日批判を行うなら格好の機会を利用しなかったのだから、トーンダウンが印象づけられた。

そして9月6日、ASEANプラス3(日中韓)首脳会議に出席していた岸田文雄首相は李強首相と立ち話を行い、処理水について双方の言い分を伝え合ったという。これは、一定程度の「(直接)対話」を双方が行う姿勢を示したことを意味する。その後、9月18日の満洲事変記念日はさらに低調で、中央の政治局員さえ行事に姿を見せなかった。

継続している「核・放射線」領域での日本批判

だが、中国が処理水をめぐる対日批判をやめたわけではない。日本産の海産物に対する禁輸措置は継続しているし、中国政府からの批判も継続している。

問題は、その批判の主体である。対日批判はもはや、中国共産党宣伝部が大規模なキャンペーンとして行うものではなく、中国国内において「核・放射線の安全」を主管する生態環境部、またIAEA業務を管轄する国家原子力機構などが展開の主体となってきているということだ。つまり「生態環境」、とりわけ「核・放射線の安全」の領域での日本批判に限定されてきている、という印象である。日中間の交流事業も一定の範囲で継続されているし、政府レベルの水面下のやりとりも盛んだという。

福島処理水問題をめぐる日中関係はややわかりにくい。だが、現在のところ対日批判は終わっていないもののその程度は一時よりも低調だ。本稿では、中国側の対日批判の程度やその主体の変化、その背景について公開情報でわかる範囲での、一つの暫定的な見方を示したつもりである。今後、まったく異なる展開が生じる可能性もあり、引き続き観察が必要である。

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