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Commentary

夜の空に映し出される経済活動の内実
夜間光データを用いた中国経済研究の新視点

章超
同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科博士後期課程
経済
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夜間光データは、統計データが不完全な国や地域でも、実際の経済成長の水準を測定する指標になる。写真は超高層ビルから見た上海市内の夜景。2009年4月18日撮影(共同通信)
夜間光データは、統計データが不完全な国や地域でも、実際の経済成長の水準を測定する指標になる。写真は超高層ビルから見た上海市内の夜景。2009年4月18日撮影(共同通信)

 1つ目に、夜間光データは人工衛星に搭載されたセンサーで得られたものであり、人為的操作を受けず、経済活動をより客観的に反映することができる。また、長期間に亘(わた)ってデータを継続的に収集できるため、限界費用も低い(Donaldson and Storeygard, 2016)。2つ目に、夜間光データは、公式統計で正確に記録されないインフォーマル・エコノミーを捉えられ、経済活動の全体像をより正確的に把握することができる(Sutton and Costanza, 2002)。3つ目に、夜間光データは物価水準に左右されず、異なる地域の経済活動を長期間に亘って分析できる。夜間光データは制度や人手への依存度が低く、より客観的なものといえる。

 他方、夜間光データには次の問題が存在する。DMSP/OLSとNPP/VIIRSのデータの空間分解能や光の強度が異なっているため、それらを比較することができない。2種類のデータをカーブフィッティング(統合)することが必要不可欠である(董ほか、2020)。また、雲による光の遮断や減衰、一時的な光である火災の光や、季節によって変化する月と太陽の高さによる光の影響などを除去しないと利用できない、という難点も指摘される。また、NPP/VIIRSのデータは、迷光(stray light)、雷(lightning)、月の光の影響(lunar illumination)、雲による光の遮断や減衰が補正されたものの、地球表面の光源の中で最も明るい油田などのガスフレア(gas flares)が除去されていない。このデータを利用する際には、ガスフレアを取り除く必要がある(Elvidge et al., 2017)。

 データの前処理におけるノイズ除去の手法については、Shi et al.(2014)の研究が参考になる。Shi et al.(2014)は火災、火山、石油またはガス井のガスフレアなどのノイズを取り除いただけではなく、乾燥した河川敷、湖、砂漠の反射光を検出し、除去する方法を紹介している。

夜間光データによる経済活動の測定

 続いて、夜間光データを用いて経済活動の分析を行った代表的な先行研究を紹介し、このデータの利用可能性を示したい。

 Elvidge et al.(2007;2009)は、夜間光データのDN値がGDP統計と高い相関があることを示した。より正確に実際の経済成長を測定するために、GDP統計の補完方法として、夜間光データが有用である(Chen and Nordhaus, 2011;Henderson et al., 2012)。Elvidge et al.(2007)が指摘するように、夜間光データのDN値とGDPデータの間には高い相関関係が見られ、実際の経済成長を測定することができるという。

 Chen et al.(2011)やHenderson et al.(2012)は、夜間光データを初めて経済学の研究に適用して以来、夜間光データが経済学分野で活用されるようになった。特に、アフリカなどの発展途上国や地域を研究対象としたものが数多く存在する。例えばMichalopoulos and Papaioannou(2014)は、アフリカの国々や国内の地域における経済の発展水準を測定する際、夜間光データを用いた。周知の通り、アフリカでは国境線が人為的に引かれ、同じ部族や民族が異なる国家に分割されている状態が現在も続いている。この事実に基づき、異なる国で生活する同じ民族の居住区の夜間光データのDN値を比較したところ、国境のどちらの側でも経済発展水準に有意な差が検出されない事実が明らかになった。このことから、国の政治体制が必ずしも経済発展に有意な影響を与えなかったと示唆される。

 Hodler and Raschky (2014)は、夜間光データを用いて、1992-2009年における世界126カ国のパネルデータを構築し、国の指導者の地元への利益誘導が経済発展に与える影響を計量的に分析した。その結果、地元の夜間光の明るさが指導者の在任中に増し、退任後に減ること、また、その現象が教育水準の低い国や地域ほど顕著であることも明らかとなった。

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