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Commentary

夜の空に映し出される経済活動の内実
夜間光データを用いた中国経済研究の新視点

章超
同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科博士後期課程
経済
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夜間光データは、統計データが不完全な国や地域でも、実際の経済成長の水準を測定する指標になる。写真は超高層ビルから見た上海市内の夜景。2009年4月18日撮影(共同通信)
夜間光データは、統計データが不完全な国や地域でも、実際の経済成長の水準を測定する指標になる。写真は超高層ビルから見た上海市内の夜景。2009年4月18日撮影(共同通信)

この年次データは、1992年から2013年までの6つの異なるDMSP衛星によって収集されたものである。具体的には、1992年から1994年までF10衛星、1994年から1999年までF12衛星、1997年から2003年までF14衛星、2000年から2007年までF15衛星、2004年から2009年までF16衛星、2010年から2013年までF18衛星から構成される。観測範囲は北緯75度から南緯65度であり、夜間光の強度(DN値)が0から63までの64段階(光が無い状態=0、光が最も強い状態=63)に分けられている。

他方、NPP/VIIRSデータは、2011年に打ち上げられたSuomi NPP(Suomi National Polar-orbiting Partnership)衛星に搭載されたセンサーによるものである。DMSPと比べて、センサーの性能が大幅に向上しており、DMSPの課題であった光の飽和状態を改善し、より正確に夜間光が検出できる。そして、NPP/VIIRSデータは2012年以降の利用が可能であるが、データの提供元であるNOAAは2019年10月からデータの提供を中止したため、コロラド鉱山大学にあるペイン公共政策研究所がデータの提供を引継ぎ、ホームページに年次データが公開されている。

図1は2022年の中国の夜間光データである。同図から確認できるように、東部地域の夜間光の強度が高い。同地域の経済発展は比較的高い水準に達していることが見て取れる。対照的に、砂漠や土漠が多くの面積を占める西部地域の夜間光の強度は低く、経済の発展水準が低いことが一目瞭然である。

図1 2022年の中国の夜間光データ

出所:筆者作成。

中国の国内総生産(GDP)、域内総生産(GRP)統計と夜間光データ

中国政府の公表するGDP、GRPの信憑(しんぴょう)性には、下記の問題が付きまとうといわれる。

第1に、中国のGDP、GRPは経済活動の全体像を反映しにくい側面がある。通常、GDP、GRPは一定期間における、ある国や地域で形成された財やサービスの付加価値を測定するものである。それを正確に把握するためには、すべての経済活動を反映する統計システムが必要となる。ところが、中国では、インフォーマル・エコノミー(非公式経済)の多くが公式統計から漏れている。一部の発展途上地域では統計機関の機能が脆弱(ぜいじゃく)で、作成されたデータの質も低い。そのため、地域経済の実態が正確に反映されないのである。

第2に、統計データの作成過程で人為的な操作が行われる場合もある。地方政府の行政能力が当地域の経済発展と連動して評価される制度がある中、役人が出世のため、統計データを恣意(しい)的に操作するケース(非合法だが)も稀(まれ)ではない。例えば、政府網(2017)では、遼寧省、内モンゴル自治区、吉林省などの地方政府がGRPなどの統計データを水増しして開示したことから、公式統計データには一定の割合で人為的に操作されていることが明らかである。統計部門の独立性が十分担保されない場合、役人によるデータの操作も根絶しにくい。結果、統計データの信憑性が失われる。

第3に、公式統計の収集方法が地域によって異なり、時系列に比較できないものも存在する(呉、2016)。また、実質経済成長率を割り出すためには物価指数が欠かせないが、多くの産業のデータが不完全であり、細かな物価指数が算出できない。

公式統計に存在する多くの問題を解消すべく、夜間光データはそれを補完するものとして利用されるようになった。GDP、GRP統計と比較して、夜間光データは以下の点で優れている。

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