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Commentary

香港の高層マンション火災で何が問題になったか
現地報道からその争点を整理する

銭俊華
東京大学学術研究員
社会・文化
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必要な安全対策が実現しなかった原因の一つを、人々はコンサルタント会社、修繕請負業者、マンション管理組合の理事会、管理会社などによる結託に求めている。写真は火災が起きた高層住宅群近くに手向けられた花。2025年12月2日(共同通信社)
必要な安全対策が実現しなかった原因の一つを、人々はコンサルタント会社、修繕請負業者、マンション管理組合の理事会、管理会社などによる結託に求めている。写真は火災が起きた高層住宅群近くに手向けられた花。2025年12月2日(共同通信社)

11月27日と28日の『朝日新聞』も、「竹の足場から出火したという」と報じた。一方、『大公報』の28日付オンライン記事「宏福苑五級火災 修繕に関する調査①/修繕用足場の背後に潜む数々の闇を暴く」(原題:「宏福苑五級火 搭棚維修調査①/揭開維修棚架背後重重黒幕」※のちに掲載停止)は、2025年に起きた、竹の足場の焼損を伴う10件の事故を「棚架〔竹の足場〕起火事故」と総括した。この「起火」は火災の発生を意味するが、文脈によっては発生「源」、つまり「竹の足場が最初の原因になって燃え出した」と受け取られる可能性もある。日本語の「出火」も同様に、「火事を出すこと」「火災が起こること」(『日本国語大辞典』)を意味するが、「竹の足場から出火した」と書けば、「竹の足場が火元である」かのように読まれる恐れがある。しかし、今回の火災を含め、『大公報』がまとめた事故例を見ると、実態は異なる。たとえば、5月12日に西営盤の工事現場で起きた火事では、吸い殻から燃え移った防護ネットが出火原因とされており、10月18日に中環(セントラル)で起きた華懋大廈(チャイナケム・タワー)の火災でも、竹の足場ではなく防護ネットの安全性が疑われ、調査対象となっていた。

入札談合――無関心が不健全な修繕を助長したのか

燃えやすい防護ネットと発泡スチロール板に加え、作動しなかった火災警報器、さらには8棟のマンションが同時に修繕工事を行っていたことも、今回の火災が大規模化し、多数の被害者を出す結果につながったと指摘されている。こうした問題の背景には、コンサルタント会社、修繕請負業者、業主立案法団(マンション管理組合)の管理委員会(理事会)、管理会社などの結託があったと人々は見ている。

建物の老朽化が進み、またリーマンショック後の雇用維持のため、政府は2009年に「ビル更新大作戦(Operation Building Bright)」を打ち出し、築30年以上のビルの修繕を支援した。2011年にはさらに「ビル修繕総合支援計画(Integrated Building Rehabilitation Assistance Scheme)」を開始し、各部門・機関による支援を統合するとともに、申請対象を築20年以上のビルにまで引き下げた。両計画には合わせて35億香港ドル(当時のレートで約360億円)の公費が投入された。2012年には「ビルに対する強制検査計画(Mandatory Building Inspection Scheme)」と「窓に対する強制検査制度(Mandatory Window Inspection Scheme)」が施行された。政府は毎年、築30年以上のビル2000棟を抽出し強制的に検査を実施するとともに、必要な改修工事を求めるようになった。以上の政策は膨大な市場を創り出した。

理事会はコンサルタント会社に依頼し、コンサルタント会社は専門知識に基づいて、修繕工事に入札した複数の請負業者の中から適任者を選定する──これが一般的な流れである。しかし、入札談合が行われる場合には、修繕工事の実施を決めた段階で、理事会が最終的にどのコンサルタント会社とどの請負業者に依頼するかはすでに内定しており、計画どおりに進めれば、関係者は密かに利益を分配することができる。不正な利益の授受関係を結ぶ関係者にとっては、住民の負担能力や施工・資材の品質、工事の進捗(しんちょく)よりも、水増し請求を行い、粗悪な資材を使ってコストを抑え、最大限の利益を搾取することが目的となる。

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