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Commentary

香港の高層マンション火災で何が問題になったか
現地報道からその争点を整理する

銭俊華
東京大学学術研究員
社会・文化
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必要な安全対策が実現しなかった原因の一つを、人々はコンサルタント会社、修繕請負業者、マンション管理組合の理事会、管理会社などによる結託に求めている。写真は火災が起きた高層住宅群近くに手向けられた花。2025年12月2日(共同通信社)
必要な安全対策が実現しなかった原因の一つを、人々はコンサルタント会社、修繕請負業者、マンション管理組合の理事会、管理会社などによる結託に求めている。写真は火災が起きた高層住宅群近くに手向けられた花。2025年12月2日(共同通信社)

2025年11月26日、香港新界東部に位置する大埔区の高層住宅群「宏福苑」で火災が発生した。8棟の31階建てマンションのうち7棟に延焼し、火災により168人が死亡した。2026年1月9日までに、4400人以上の住民がホテルやユースホステル、公共機関の臨時住宅などに避難している。本稿では、①防護ネットと発泡スチロール、②竹の足場、③入札談合、④中国当局の存在感と国安時代(2020年の国家安全維持法制定以降の時代を指す)の警戒心という四つに焦点を当てることで、今回の事件・事故を振り返ってみたい。

防護ネットと発泡スチロール――防火基準を満たしていたのか

火災発生直後は、外壁を覆っていた防護ネットおよび窓にはめ込まれていた発泡スチロールが、真っ先に注目を集めた。11月26日14時51分(香港時間)に消防処(局)が通報を受け、18時22分にはほぼ最高レベルである「五級」火災に指定された。筆者が視聴した19時半のTVB(香港最大手のテレビ局)ニュースでは、香港工程学会消防分部事務委員の区家豪が、屋宇署(建築局)と労工処(労働局)には防護ネットに関する難燃指針が存在すると述べた。また港九搭棚同敬工会(香港・九龍竹足場職人組合)理事長の何炳徳は、一部の業界ではコスト削減のため難燃性のないネットを使用する場合があると指摘していた。27日早朝には、新界北総区刑事総部の高級警司(警視正に相当)である鍾麗詒が、防火基準を満たさない防護ネットなどの資材や発泡スチロールによって、今回の火災が急速に延焼した可能性を示唆した。同日18時頃、香港トップの行政長官である李家超は記者会見で、「政府は即時に外壁の大規模修繕工事を行っており、かつ足場の防護ネットを設置している香港全域の建物について、数回に分けて巡回点検を開始した」と述べた。

筆者が視聴した同日19時半のTVBニュースでは、宏福苑の大規模修繕工事を担当した「宏業建築」によって住民向けに出された中国語の通知文が映し出された。その通知には、「Foam Board を使用し、住宅外壁の窓ガラスを完全に覆い保護する」と記されていた。しかし、なぜ「Foam Board」だけ中国語の「発泡膠板」(発泡スチロール板)と書かれていなかったのか。住民に対し、分かりやすく情報を伝える意図がなかったかのように見える。

28日、保安局局長の鄧炳強は次のように述べた。「最初の出火場所は宏昌閣の低層部の外側に設置されていた防護ネットだったと考えている。その後、火は発泡スチロール板に燃え移り、火勢は急速に上方へ拡大して複数の階に延焼した。短時間のうちに、宏福苑のほかの6棟のマンションにも影響が及び、大火は窓や扉に貼られていた発泡スチロール板に引火し、ガラスが破裂し、火勢がさらに強まり、室内へと急速に広がった。こうして、短時間のうちに室内外の広い範囲で同時に出火し、最終的に今回の大規模災害を引き起こした」。この時点で政府は、防護ネットは防火基準を満たしているとしていたが、12月1日になって、防護ネットの中に防火基準を満たしていないものがあったと訂正した。

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