Commentary
定年制度改革は高齢者就業にどう影響するか
中国家計所得調査(CHIP)のミクロデータから読み解く

定年退職者の基本状況
旧制度下の退職年齢は総じて法定のものより若い。都市の定年退職者を調査したCHIP2018の集計結果によれば、定年退職者の退職時年齢は平均で53.7歳にすぎず、男女別ではそれぞれが57.4歳、50.9歳となっている(表1)。その裏返しだが、男女の勤続年数に7歳近いギャップがある。女性の平均寿命が2020年に80.9歳と男性より5.5歳も長いこと(国家統計局)を考えると、定年制度に大きな問題が潜んでいると理解できる。

退職した年次により退職時の平均年齢が異なるものの、全体としては時間の経過とともに退職時の平均年齢が上昇する傾向にあり、また、女性に比べ男性のそれが顕著であることもCHIP2018の集計結果から窺われる(図2a)。
一方、図2bが示すように、旧制度下での希望退職年齢は実際の退職年齢とさほど変わらず、しかも、それが退職した年次と関係なく観測される、という事実も判明する。退職後、潤沢な年金収入が保障されていることがその背景にあろう。

図3は退職前の職場別にみた調査時の年金給付額と退職前の給与を比較したものであり、全体として退職前給与に対する年金が1.47倍になる。つまり、都市の年金生活者はその年金収入が退職時の給与よりも47%多いということである。退職前の職場別にみると、党政府機関や事業単位で働いた者の年金収入が際立って高いことが分かる。

実際、8割くらいの年金生活者は「年金が基本的な生活ニーズを満たせるか」という設問に対し肯定的な答えを出している。「足りない」との回答者は16.5%と少数である(図4a)。その裏返しとして退職後の再就職は全体の8.9%に留まり、8割以上の者は家事等(56.8%)やレジャー・学び(22.0%)に時間を費やす形で老後を送っている(図4b)。
「再就職」の回答者は基本的に年金収入が少ない。図4cから見て取れるように、「再就職」「元職場再雇用」と回答した者の年金月額はそれぞれ平均2170元、2779元と「レジャー・学び」「家事等」と回答した者のそれを下回る。
「年金が基本的な生活ニーズを満たせるか」に対し、「足りない」を選んだ回答者の年金は少なく、「比較的余裕ある」と回答した者の年金の4割くらいにすぎない(図4d)。

要するに、都市部退職者の圧倒的多数は年金だけでも基本的な生活ニーズを満たすことができている。定年後の再就職、元職場再雇用は基本的に、年金が比較的少なく、年金だけでは生活できないような者に限られる。
都市部における高齢者就職の決定要因
都市部における高齢者の就業行動または就労選択をより詳しく分析するため、ここで、CHIP2018の個票データから50-80歳の全サンプル(およそ1万人)を抽出し、調査時点での就業または非就業が個々人の属性や収入とどのように関連しているかを重回帰分析で検証する。
ここでは、就業を1、非就業を0とする従属変数を設定し、年齢、性別、政治的身分(共産党員か否か)、戸籍(農業vs非農業)、月収、教育を独立変数としたLogisticモデルを構築し、SPSSを用いて計量分析した。分析対象の平均年齢は60.0歳、男性が49.3%、共産党員が18.7%、非農業戸籍者が54.3%をそれぞれ占める。また、平均月収は2716元であり、教育水準別の分布は、小卒以下が24.7%、中卒が37.9%、高卒が20.9%、職業高校・中専卒が4.4%、大専・大学・大学院が12.1%となっている。なお、全体の就業率は48.1%(3922/8155)である。