Commentary
『ナタ 魔童の大暴れ』の成功とその寓意
とことんまで追求された映像表現とストーリー展開の妙

これだけの作品を作り上げるのにはやはり時間と人手がかかる。監督の餃子(本名・楊宇)はシナリオ(絵コンテ)作りに2年をかけ、それからさらに制作に3年を費やした。鉄鎖の特殊効果を作るのに1年、3匹の龍が逃げるシーンを作るのに半年と、100以上のチームに分かれて時間をかけて映画が作られた(『21世紀経済報道』2025年2月17日)。
この映画を制作したのは監督の餃子が株の56%を保有する可可豆動画というアニメ制作会社であるが、ほかに140社近くのアニメ・CG制作会社が下請けとして関わっており、総勢4000人が動員されたという(『経済参考報』2025年2月17日)。
アニメの下請けというと、2Dアニメの時代には「動画」と呼ばれるキャラクターのコマごとの動きを描く作業を請け負ったり、テレビ放送数回分の制作を丸ごと請け負うといったパターンであったが、デジタル化された3Dアニメの場合には特定のキャラクターの制作を請け負ったり、特定のシーンのVFXを請け負ったりする。南寧市の四葉草文化伝播有限公司の場合、「ナタ2」の海底のシーンに出てくるタコ将軍とサメ将軍などの怪物の3Dキャラクター作りをした(『21世紀経済報道』2025年2月18日)。
「ナタ」と「ナタ2」がヒットしたことによって、制作した可可豆動画がある四川省成都市が新たなアニメ産業の集積地として脚光を浴びている。もともと中国のコンテンツ産業の中心地は北京市と上海市で、「ナタ2」の主たる出資者である光線伝媒も北京市の企業である。しかし、ヒット作に恵まれでもしない限り、決して高収入とはいえないアニメ制作会社の中には、家賃など生活コストが高い北京や上海を避け、成都に拠点を置くことを選ぶ企業も増えているという。実際、「ナタ2」の下請けをしたアニメ・CG制作会社の多くが成都にある。
成都市がアニメ産業の新たな集積地になるまでには、成都市政府によるこれまで20年余りの積極的な誘致活動があった。2002年にはまずゲーム産業の誘致を開始し、2012年からは成都市高新技術開発区に入居するネット・コンテンツ関連企業に対しては家賃の減免、100万元を上限とする補助を行うようになった。可可豆動画の前身の餃克力動画工作室も2013年に成都のインキュベーション基地に入居して優遇策の恩恵を受けた。
成都市がデジタル・コンテンツ企業を育てるために整備した天府長島数字文創園には、可可豆動画のほか、映画「流浪地球」のVFXを担当した墨境天合など64社集まっているという(『21世紀経済報道』2025年2月13日)。
中国人による、中国人のための映画?
前述のように、「ナタ2」は154.4億元(約21.5億ドル)の興行収入をあげたが、うち海外での興行収入は1億ドル程度で、収入の大半は中国国内である。日本でも2025年4月に公開されたが、日本では特にヒットはしなかったようである。
「ナタ2」はなぜ中国国内ではすごい人気なのに海外ではふるわないのだろうか。
その要因の一つとして言葉の問題があげられる。いやそれなら外国映画はみな同じではないかと思われるかもしれないが、「ナタ2」の場合には3種類の中国語が使い分けられているところに難しさがある。すなわち、日常的な中国語の口語に加え、仙人や将軍たちは文語で話し、ナタの肉体を蘇(よみがえ)らせた仙人である太乙真人はユーモラスな四川語で話すのである。文語で話すというのは日本の時代劇で「御意にございます」とか「かたじけない」など現代ではあまり使われない表現を使うのと似ており、ドラマに方言丸出しのキャラクターが出てくるとユーモラスに感じるのも理解できる。そうした意味と面白さは、中国語を介さない人が日本語や英語などの字幕だけを見ていても伝わりにくい。このニュアンスを外国の観客に伝えるには全編吹き替えた方がいいと思うが、そうすると中国語がわかる観客には物足りなくなるというジレンマがある。