Commentary
現代中国の対日感情はどうなっているのか?
SNS時代の民意を読み解く
一般的に、ネット上のインフルエンサーたちは視聴者の関心を引くため、より煽情的で挑発的な内容を好んで制作する。中国の場合、とりわけ対日批判コンテンツは、庶民の支持を得やすく、中国政府の政治的正しさや対日政策と一定の整合性があり、当局の厳しい規制対象となりにくい。これらの要因が相まって、対日批判コンテンツは中国のインフルエンサーにとって安全に収益を上げられる格好のテーマとなっており、近年の中国のSNS上では日本を批判する「愛国」動画が注目を集めるようになった。
例えば、法令上中国籍学生の入学が制限されている在中の日本人学校を「差別的」や「スパイ養成機関」と誤って描写する動画が拡散されるなど、たとえこうした偽情報に対して事実を精査する報道も一部に存在しても、エコーチェンバー効果により極端な意見が増幅され、過激行動のリスクが高まっている。例えば、本年5月には中国人男性による靖国神社での落書き事件が発生したが、これは中国国内向けのアクセス数目当ての迷惑行為が国際的に波及した事案だろう。中国外務省は靖国神社を「日本軍国主義の象徴」と批判しつつも、在外中国人に現地法令順守を求めた。冒頭で触れた外国人を狙った殺傷事件を含め、こうした一連の犯行は、当局が容認してきた排外主義がSNSの効果と相まって過激化した結果と考えられる。しかし、こうした過激行動は中国の国際的信用を損なうだけでなく、体制自体への反抗や無秩序拡大の危険性をはらむため、当局にとって看過できない問題となっている。
SNS時代に二極化する中国の対日世論?
このような状況は、中国のネット空間における「反日」感情の増幅と、それに基づく歪(ゆが)んだ日本像の形成につながっている。こうして誘発される一部の民衆による通り魔的な凶行は、十数年前の大規模な反日デモと異なり、個人的かつ突発的な行為であるために当局の統制が効果をあげにくい。とはいえ、このような現象は必ずしも中国社会全体の対日感情を正確に反映しているとは限らない。むしろ、ネット空間特有の誇張や偏向、そしてアルゴリズムによる同質的な情報の集中が、「反日」感情を誇大に見せている可能性がある。
例えば、排外的なネット世論や好戦的な「戦狼外交」のイメージとは対照的に、近年の中国における日本語学習者は増加している。国際交流基金のデータによれば、2018年度から2021年度の3年間で、韓国の日本語学習者は11.5%減、台湾は15.6%の減少を記録している一方、中国の日本語学習者数は5.2%増加し、世界で唯一100万人超えの水準に達している。
さらに、2023年の福島原発処理水の海洋放出問題では、中国政府が公式声明で厳しく批判し、中国のSNS上でも対日批判が見られたが、予想ほどの過熱した世論の反応はなかった。世論調査によると、中国国民の47.6%が処理水放出を「大変心配している」または「ある程度心配している」と回答し、26.7%は「心配していない」と回答した。国際原子力機関(IAEA)の検証に対する信頼度については、35.9%が「IAEA検証とは関係なく、処理水は放出してはいけない」と回答し、14.1%が「IAEA検証は信頼できないので放出はすべきではない」と回答する一方、33.9%が「IAEA検証は信頼するものの日本政府にさらなる努力を求める」と回答し、13%が「IAEA検証は信頼でき、日本政府の措置は妥当」と回答している。海洋放出に文字通り拒否反応を示す者と理性的な反応とがちょうど二分化している。さらに興味深いことに、この問題が日中関係の障害になると考える日本国民は36.7%であるのに対し、中国国民はわずか5.8%に過ぎない。