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Commentary

現代中国の対日感情はどうなっているのか?
SNS時代の民意を読み解く

平井新
東海大学政治経済学部特任講師
社会・文化
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SNS時代の民意は過激な意見を増幅させる一方で、それにとらわれない穏健で理性的な日本イメージも形成されつつある。写真は江蘇省蘇州市のスクールバス襲撃事件の現場に備えられた花束。2024年6月30日(共同通信社)
SNS時代の民意は過激な意見を増幅させる一方で、それにとらわれない穏健で理性的な日本イメージも形成されつつある。写真は江蘇省蘇州市のスクールバス襲撃事件の現場に備えられた花束。2024年6月30日(共同通信社)

2008年から2010年にかけて、初期SNSが本格的に広まり始めた。FACEBOOKを模した機能の人人網(レンレンワン)が大学生を中心に人気を集め、2010年にはミニブログWeibo(ウェイボー)が登場し広く支持を得た。同時期、東シナ海ガス田問題、中国製食品の安全性問題、2010年の尖閣諸島沖中国漁船衝突事件など日中間の懸案が増え、両国感情の溝が深まり、日本への「良くない印象」は六割前後で増加傾向にあった。

2012年、Weiboの普及が進む中、テンセント社のメッセージアプリWeChat(ウィーチャット)が急速に広まった。尖閣諸島国有化宣言を機に大規模反日デモが起き、日系商店や企業、日本料理店への破壊や略奪、一部で放火も発生した。当局の取り締まりで1ヶ月以内に収まったが、翌年の調査で「良くない印象」が92.8%に跳ね上がり、調査開始以来最悪となった。ネットユーザー数は約5.64億人となり、SNSによる庶民感情の急速な拡散が目立った。2013年末の安倍首相(当時)靖国参拝で反日感情がさらに高まり、日本への「良くない印象」は93.0%でピークに達した。一方で、この時期、抗議デモの呼びかけはあったが当局が広く認めず、大規模デモは減少していた。

2016年から2020年にかけて、TikTokなどショート動画プラットフォームが広まり始めた。2018年6月、TikTokは世界で5億人のユーザーを得ており、同年末には中国のネットユーザー数が約8.29億人に達していた。この時期、対日感情は劇的に好転し、2013年に5.2%と最低だった「良い印象」が2020年に45%まで改善し、調査開始以来最高となった。2013年にピークだった「良くない印象」も、習近平国家主席の国賓待遇での訪日を控えた2019年から2020年までには52%にまで減少した。

2020年から現在まで、コロナ禍による国境閉鎖を経て、中国の対日感情は微妙に変化している。具体的には、日本への「良くない印象」が微増し、2023年現在まで六割程度で推移する一方、「良い印象」は2021年に約10ポイント減の32%程度まで落ち込んだが、2023年には約37%まで回復した。つまり、現在の中国の対日感情は、好悪が約四対六の割合で二分化した状況が続いている。

2022年12月時点で中国のインターネットユーザー数は10億6700万人、普及率は75.6%に達して、中国のSNS市場も目覚ましい成長を遂げている。主要なSNSプラットフォームにはWeibo、TikTok、WeChat、Red(小紅書、シャオホンシュー)などがある。Weiboはすでに言及したが、X(旧Twitter)に似たミニブログ機能を持ち、多くの有名人が利用する。TikTokはショート動画アプリの世界最大手である。WeChatはメッセージ機能、ミニブログ、モバイル決済、ショート動画など多機能で、日本のLINEに近い。RedはInstagramに近いが、より美容、ファッション、グルメなどのリアルな流行をフォローするコンテンツが豊富だ。こうしたSNSプラットフォームに牽引された中国のインフルエンサー市場は、2024年には約7兆元(約150兆円)に達すると予測される。こうしてネット市場が成熟したことで、「反日感情」の表出の場も街頭からオンライン空間へと移行した。その理由は、習近平体制下では街頭デモが抑制される一方、オンライン上では比較的に自由度が残っていたためでもあろう。

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