Commentary
2024年の大学受験と出願プランナーの隆盛が映す中国
転換期の中国社会を北京から報告する
振り返ってみると、中国の大学は、もともとはごく一部のエリートを対象として設置され、1980年でさえ高等教育機関の合格者はわずか28万人、進学率は1%以下だった。それが1999年に高等教育拡大政策が開始され、(短大や成人学校を含む)「高等教育」の進学率は23年には1096万人、67.8%にまで増えた。進学者数は40年で40倍近く膨れ上がった計算になる。その結果、高等教育の裾野は多くの農村出身者をカバーし始めたが、急速に大衆化した学生たちに制度の変化は追いついていないのかもしれない。そのギャップを埋めたのが張雪峰に代表される有料コンサルタントサービスだったのではないだろうか。
5.「焦慮」の時代に
出願プランナーの隆盛には、もう一つ重要な背景がある。中国では大学教育を就業の前段階として直結させて捉える「常識」があることは上記でも触れたが、その傾向は新卒生の失業率が史上最悪と言われる現在、さらに顕著になっている。政府公式の過去6年間の若者(16〜24歳)の失業率データを見ても、2018年から23年の毎年6月の失業率は、10%、11.6%、15.4%、15.4%、19.3%、21.3% と増え続け、統計方法の調整を行った後の24年の7月も17.1%と依然高止まりしており、大卒者の失業増加は焦眉の問題だ。
「修士号を取ってフードデリバリー、4大卒で家政婦、海外留学から戻って月給10万円というニュースを聞いて、突如、今までみんなが信じてきた『高考(大学入試、ひいては高学歴)で運命が変わる』のではなく、『(経済発展の)サイクルで運命が変わる』ということに気がついた…だから、張雪峰へ救いを求めるのだ」と指摘する声(老鉄仔勇哥「2024最も消耗する高考 張雪峰が話題の的に」2024年6月)があるように、不景気な時代に子どもを高等教育に送る親の焦慮がこうしたサービスの背景にありそうだ。
張雪峰は大学の専攻と就職の現実に関して多くのアドバイスをしている。今年は4年後の就職を見据えて専攻を選ぶなら電力関係、口腔(こうくう)外科、臨床医学だと勧め、また、昨年は、息子のジャーナリズム専攻の是非を相談に来た母親に対して、「ジャーナリズムは中国で最悪の専攻で、職業にするのは難しい」と歯に衣着せぬ物言いでネットを炎上させたこともあった。その際も、綺麗事や建前ばかりを言う政府系メディアと対比させ、「庶民の味方として真実を伝える先生」として圧倒的な市民の支持を得た。
2024年の大学の専攻選びの傾向に関して、張雪峰も今年はかつての「銭(高給)」志向から「穏(安定)」志向にシフトしていると指摘しているように、中国社会のシフトはあちこちで見られる。若年層のうつ病の急増や一元的競争への疲れの表面化などを受けて、選択の多様性や学生本人の主体性を重要視する声は中国社会でもこの数年で急速に強まっている。
厳しい学生の就職戦線下で受験生家族の焦慮は深まり、それに呼応するかのように、にわかに有料サービスが急増している。最新の高考やそれを取り囲む社会サービスからも、急速に変容し転換期を迎えている中国社会が浮かび上がってくる。