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Commentary

2024年の大学受験と出願プランナーの隆盛が映す中国
転換期の中国社会を北京から報告する

斎藤淳子
ライター
社会・文化
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厳しい学生の就職戦線下で受験生家族の焦慮は深まり、それに呼応するかのように、にわかに高額の出願書作成サービスが急増している。写真は北京の受験会場前でチャイナドレス姿の保護者(左)と話す受験生。2024年6月7日(共同通信社)
厳しい学生の就職戦線下で受験生家族の焦慮は深まり、それに呼応するかのように、にわかに高額の出願書作成サービスが急増している。写真は北京の受験会場前でチャイナドレス姿の保護者(左)と話す受験生。2024年6月7日(共同通信社)

 新華社系の『新華毎日電訊』は「(同業界の)市場規模は10億元(約2000億円)弱に上り、2026年分まで予約がいっぱい」(2024年6月24日)と題した記事で、地方の小都市(「第5線都市」)の高校教師の話として、「大都市でもここでも、出願先のプランニングサービスはこの3、4年で急増した。クラスの約半分の受験生が利用している」と伝えている。筆者の周りでも「金を出しても情報は買う価値がある」という反応が多かった。

 この手のサービスは、大学受験はもちろん高校受験でも一般化しており、価格は日本円で数万円から数十万円と高額にもかかわらず、急速に市民に浸透している様子だ。中国の受験産業は日本以上に親の不安につけ込み、需要があればどこまでも値を上げる超市場化が進んでいる。

 早速、架空の国家認定証を宣伝に使う悪徳業者も出始めている。教育部(文部科学省に相当)は、2024年6月に「政府の関係機関は『高考出願申請プランナー』という職業資格認定証の類のものは一切発行していない」として、「高額指導の詐欺」に注意するよう呼びかけたほどだ。

 また、同サービスの大量発生を受けて教育部及び地方の教育庁は、出願手続きの指南書の「2024年高考出願申請10問10答」や、「無憂考網」(入試情報ポータルサイト、山西省)の開設、動画の発信などで手順の説明や情報公開を活発化している。有料サービスの隆盛は裏を返せば複雑さとわかりにくさに悩む親たちの叫びでもあったのかもしれない。

4.受験生の救世主?出願プランナーの張雪峰

 出願プランナー業界の第一人者として中国で誰もが知るのが張雪峰だ。彼はユーモラスで実践的な高等教育攻略トークで知られる教育インフルエンサーだ。中国国内版TikTok「ドウイン(抖音)」のフォロワーは2500万人級という。2016年に名門大学院を紹介する噺家(はなしか)顔負けの面白トーク動画が大ヒットしてネットで頭角を現したが、もともとは大学院入試補習塾の講師だった。彼自身も黒竜江省の貧しい農村出身なので、似た境遇にある後輩たちを助けたいと公言し、コネも何もない「我々」には勉強しかないと地方出身の受験生を励まし、黙々と高等教育を目指す多くの人々の心をつかんできた。今日の市民生活に圧倒的な影響力を持つスマホ動画時代が産んだ平民インフルエンサーでもある。

張雪峰(峰学未来創立者兼CEO)。峰学未来オフィシャルサイトより。
張雪峰(峰学未来創立者兼CEO)。峰学未来オフィシャルサイトより。

 ネットには彼を慕う庶民からの次のような声が多く寄せられている。「(彼は)平民の道を照らしてくれた。我々はコネも人脈もない家庭だ。張先生に感謝する」「(彼は)一般家庭から大学に行った子どもに地に足のついた指導をしてくれ、食べていく機会を与えてくれた」「張雪峰先生は誠心誠意普通の庶民の子どものためを思い、声を上げてくれた。尊敬に値する」などだ。これらに共通するのは、自分たちはコネも人脈もない平民だが、張雪峰はそんな我々に寄り添って大学進学の貴重なアドバイスをくれたという声だ。大学とは無縁だった農村出身者が高考に参与し戸惑い、将来の子どもの就職を憂う姿が浮かび上がる。

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