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Commentary

2024年の大学受験と出願プランナーの隆盛が映す中国
転換期の中国社会を北京から報告する

斎藤淳子
ライター
社会・文化
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厳しい学生の就職戦線下で受験生家族の焦慮は深まり、それに呼応するかのように、にわかに高額の出願書作成サービスが急増している。写真は北京の受験会場前でチャイナドレス姿の保護者(左)と話す受験生。2024年6月7日(共同通信社)
厳しい学生の就職戦線下で受験生家族の焦慮は深まり、それに呼応するかのように、にわかに高額の出願書作成サービスが急増している。写真は北京の受験会場前でチャイナドレス姿の保護者(左)と話す受験生。2024年6月7日(共同通信社)

3.高額出願プランナーの隆盛

▼複雑な出願先選び

 上記に見てきたように、高考のマッチングは非常に複雑なため、出願先選びに必要な情報は膨大になる。まず、単純に大学や機関が多い中、自分の希望と得点に合う大学や専攻を選ばなくてはならない。4年制大学の「双一流」と呼ばれる上位校だけで112校、4年制大学全体では1242校もある。そこに800以上に及ぶ細かい専攻が設置されている。それだけでなく、上記に見てきたように、毎年出願に必要な最低点は公開されるが、実際の合格ラインはその年の試験の難易度や科目、人気などで変動するので、受験生側からは推測するしかない。自分の点数が、志望先の大学・学科の合格ライン以下だった場合は、第2希望、第3希望、第4希望と順番に回される。いずれの志望先にも満たず、「(学校側の)調整に従う」ことを選択した場合は、校内の不人気の学部に配置される場合もあるので、過去の合格者の省内ランキングなどを研究して、賢く出願先のリストを策定する必要がある。出願の際には自分の点数相応のレベル(と推測される学科)とそれより上と下(すなわち滑り止め)の3つのレベルを選ぶのが一般的だ。

 出願先選びで多くの人が焦燥するのは、自分の点数で入学できる「少しでも良い大学・専攻」に入ろうとするためだ。明らかに自分の点数より下の大学・専攻を受け入れれば焦りは生じないが、合格できるのは1大学・専攻だけなので判断は難しい。

 また、把握しにくいのが卒業後の就職見通しだ。もともと、中国では大学の専攻と就職の結びつきが強く、入学時の専攻決定を就職予備準備とみなす「常識」がある。にもかかわらず、テストの点の向上に全霊を注ぐ中国の高校では「進路指導」はほとんどない。その上、現在は史上最悪と呼ばれる就職難の時代である。さらに、数年前まで人気だったITや不動産業が近年大きく落ち込んでいるように、たった数年で中国の政策や経済状況は激変するので少し前の経験も情報も役に立たない。以下では近年にわかに盛んになった受験ビジネスの一つについて紹介しよう。

▼出願プランナー産業の勃興

 こんな中、爆発的に伸びているのが「高考出願申請表」(中国語で「高考填報」)作成を請け負うプロのプランニングサービスだ。すなわち、受験者の点数で入れる学校や専攻を絞り出し、将来のビジョンや学生の性格及び希望を考慮した上で、進学地域の推薦や就職案に合致する専攻などを総合的に判断して、「君にはこの大学・学部への出願を推薦する」と出願先を選び出す作業を有料で請け負うコンサルタントだ。従来これは、学生の両親が中心になって周囲の知り合いや親戚などから得られる情報や独自のリサーチを頼りに自分で行っていた作業だ。自分でやるのは荷が重く、「より充実した情報を得て、少しでも良い大学・学部に押し込みたい」と望み、万が一、不完全な出願計画ゆえに子どもが損をしたら大変だと感じる親が有料でプロに依頼するようになった。このサービスは2014年ごろから裾野を広げ、2019年からの3年間で急増した。

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