Commentary
2024年の大学受験と出願プランナーの隆盛が映す中国
転換期の中国社会を北京から報告する
▼試験の実施者は省
中国の高考はこのように試験の実施者は省であり、国はそれを束ねて統一しているに過ぎない。ちなみに、日本の大学入学共通テストは、独立行政法人の大学入試センターが実施するものであり、国も地方も関与しない。
また、受験生から見ても省の壁はまるで国境の如く世代を超えて堅固だ。具体的には、彼らの教育は戸籍で縛られており、受験生は両親のどちらかから受け継ぐ戸籍のある省でしか受験できない。例えば河南省戸籍の両親が北京に働きに行ってそこで生まれた子どもであった場合、戸籍は河南省なので、仮に小学校から高校まで北京の学校に通った場合でも受験は河南省ですることになる。
なにより、大学受験問題は省によって異なるため、その準備のために非北京戸籍の子どもは遅くても高校までには戸籍所在地に戻って大学受験勉強をするのが一般的だ。
このように、中国の高考はそれぞれの省が異なるルールで異なる試験を課し、省内の学生のランキングに基づいて、その専攻の最低点を満たしている省内の志望者リストを大学に提出する。そこから先は大学が学生を選ぶことになる。
よって、各省の持つ大学の合格枠も異なる。例えば2024年の北京大学と清華大学のトップ2校への合格者(ネット推計)を見てみると、北京市(総人口2185万人、受験生数6.72万人)からは580人もいる一方で、人口の多さで知られる河南省(人口9815万人、受験生数136万人)は420人、山東省(人口1.01億人、受験生数100万人)からはたったの170人だった。
北京に出稼ぎにきた両親のもとに生まれた子どもは、大学への門戸がより狭い両親の出身省で受験しなければならない。つまり、省間で同じ大学・専攻に合格する難易度が異なるという不公平が生じている。恵まれた教育資源とセットになった大学進学難易度の格差は、地方出身者が大都市の人との結婚を通じて子どもに北京市や上海市などの大都市戸籍獲得を目指す主な理由になっている。(詳細は拙著『シン・中国人』第1章を参照)
また、試験問題は「I」、「II」、「甲」の3種類がある上、北京市、上海市、天津市だけは「自主設定」の試験問題なので、各省で異なる。その上、先に触れた通り配点や満点の設定も異なるので、省を跨(また)ぐ点数の比較はできない。
▼学生の志望より人材育成計画を優先
高考のもう一つの特色は、人材育成計画が先にありきで、そこに学生が応募する設計にある。つまり、国の指導のもとで学校が細かい専攻枠を決め、次にそれを各省枠に割り振り、最後に学生が出願する。日本のように受験生本位で複数の専攻や学校を併願することはできず、しかも入学前に専攻を決めておかなければならない。なお、浪人は可能だが、24年から翌年の1回だけに限定された。
このように、試験は一部のトップ校では多元化の試みが実施されているが、それはごく少数のエリートや特技を持った人材発掘のためであり、大多数は依然、一元的な筆記試験の一発勝負による域内序列で合否が決められる。負担削減の試みはあるものの、学生の重圧は日本の比ではない。