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Commentary

中国で「QRコードによる乗車」が拡大した理由
北京・上海・深圳――デジタル化で激変した地下鉄&バス②

華金玲
慶應義塾大学総合政策学部訪問講師(招聘)
社会・文化
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中国では約7億5000万人が地下鉄やバスの交通にモバイル決済を使っていると推測される。写真は北京市地下鉄の花園橋駅(筆者撮影)
中国では約7億5000万人が地下鉄やバスの交通にモバイル決済を使っていると推測される。写真は北京市地下鉄の花園橋駅(筆者撮影)

 近畿日本鉄道も2022年3月17日から主要7駅の自動改札機の一部にQRコードリーダーを設置し、スマホにQRコードを表示して改札を通過するデジタル切符サービスをスタートした。JR東日本は2022年11月に「えきねっと」で乗車券類を予約・購入する際に「QR乗車」を選べば、えきねっとアプリに表示されるQRコードで新幹線も在来線もチケットレスで利用できる乗車サービスを導入し始めた。

 JR西日本も2024年下半期からインバウンド客向けに、スマホでQRコードを表示、改札機にかざして利用するチケットレス乗車を順次導入すると発表した(産経新聞、2023)。サービス提供エリアは姫路駅から長浜駅までの244駅であり、そのエリア内に自動改札機を設置している211駅で2024年4月からQRコードリーダーの設置を順次に行い、QRコードリーダーのない駅でも駅掲示のQRコードを読み込むことで利用可能になるという。前回触れたように、2024年から東急電鉄でも全駅でQRコードによる乗車、およびクレジットカードをタッチすることによる乗車が可能になる。

 ただ、日本の鉄道各社は交通系ICカードに代わるものとしてQRコードを位置づけてはおらず、当面は訪日外国人などを主なサービス対象と考えているようである。

日本人が中国でアリペイ、ウィーチャットペイを使うには

 中国に住む人々の間でQRコードを利用した乗車コードなど各種支払いサービスが普及した反面、海外から中国を訪れる人にとっては交通機関などの利用がかえって不便になった面がある。乗車コードを利用する前提として、アリペイまたはウィーチャットペイを利用していなければならない。ところが、これらを利用するには中国国内の銀行口座と紐づける必要があった。しかし、中国を短期間訪問する外国人が銀行口座を開設することはかなり難しい。

 従来の乗車券や交通カードは現金さえ持っていれば買えたのだが、中国の住民たちが乗車コード一辺倒になる中で、稼働している自動券売機の数が減り、乗車券を現金で買う人にとってはかえって不便になっている。

 そんなわけで、コロナ禍が明けて、日本から中国を訪問する人が再び増えてきたとき、日本のマスコミでは「中国では現金が使えるところが少なく、不便になった」「現金だけでは生きていけない」などのネガティブな報道がなされた。

 ただ、幸いなことに、2023年7月の第31回FISU夏季ワールドユニバーシティゲームズ(成都市)、および9月の第19回アジア競技大会(杭州市)に際して、海外旅行者のキャッシュレス決済の利便性を向上させるために、ウィーチャットペイとアリペイが同年7月に海外クレジットカードとの連携を開始した。

 ウィーチャットペイはVisa、AMERICAN EXPRESS、Diners Club、Discover、Diners、JCB、Mastercardとの連携が可能になっている。利用にあたり、上記カード情報のほかにパスポートなどの身分情報の登録が必要になる。中国国内の携帯電話番号がなくても、日本でSMSが受領できる電話番号があれば登録できる。決済上限額が6000元、1回の取引額が200元以下の場合は手数料が免除され、それ以上の場合に生じる手数料は画面から確認できるようになっている。アリペイはVisa、Mastercard、Diners Club、Discoverと連携できる。こちらの決済上限額は3000元と設定されている。

 ということで、日本の皆さんも次に中国を訪問するときにはぜひ乗車コードを使って地下鉄・バスを乗りこなしていただきたい。

(注1)健康コード利用期間中の移動履歴に関する個人情報は、中国情報通信研究院(CAICT)と通信事業者(中国電信、中国移動、中国聯通)が2022年12月13日にオフラインすると同時に「中華人民共和国データ安全法」「中華人民共和国個人情報保護法」に基づき、全データをただちに削除し、個人情報の安全を確保すると発表している。

 

参考文献:

中国互聯網絡信息中心『第41〜52次中国互聯網絡発展状況統計報告』
中国支付清算協会『2019〜2023年中国支付産業年報』
界面新聞「騰訊力推乗車碼 意在公交大数拠(テンセントが乗車コードをリリース、交通ビッグデータが狙い)」2018年10月24日

余楽・張鵬・陳園園「城市軌道交通互聯網票務系統二維碼乗車碼編碼方式的研究」『電子技術与軟件工程』2018年8月15日

立石泰則『フェリカの真実』草思社、2010年

丸川知雄「2020年、世界は「中国の実力」を見せつけられた」Newsweek日本版コラム、2021年2月17日

華金玲「新型コロナウィルス感染症対策の「中国方式」と情報技術」、『日中社会学研究』第29号、2022年2月、16-32頁

新京報「北京市民注意! 乗車碼、健康碼已“二碼合一”(北京市民注意!乗車コードと健康コードの二つが一つに統合)」2022年5月30日

中国交通報「健康碼乗車碼合体了! 武漢公交実現“一碼通刷”(健康コードと乗車コードが一体化!武漢の公共交通で「一つのコードに統合」)」2022年8月8日

日本経済新聞「沖縄都市モノレール、乗車券にQRコード」、2014年9月2日

産経新聞「JR西日本がQRチケット導入へ 万博来場者の周遊視野」、2023年12月20日

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