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Commentary

中国で「QRコードによる乗車」が拡大した理由
北京・上海・深圳――デジタル化で激変した地下鉄&バス②

華金玲
慶應義塾大学総合政策学部訪問講師(招聘)
社会・文化
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中国では約7億5000万人が地下鉄やバスの交通にモバイル決済を使っていると推測される。写真は北京市地下鉄の花園橋駅(筆者撮影)
中国では約7億5000万人が地下鉄やバスの交通にモバイル決済を使っていると推測される。写真は北京市地下鉄の花園橋駅(筆者撮影)

 総じていうと、NFC(ICカード)とQRコードにはそれぞれ一長一短があり、日本のように交通機関のみならずコンビニやスーパーにもNFCのカードリーダーが備えられていて買い物の支払いにも使える状況では、QRコードに乗り換える動機が乏しい。中国では各都市の交通カードの間の相互利用はできないし、交通カードで買い物することもほとんどできなかった。中国の交通カードが日本の交通系ICカードほどの利便性を実現できていなかったことが、乗車コード(QRコード)への切り替えをもたらした要因の1つである。

 日本では交通系ICカードがQRコードによって淘汰されるとは思えないが、中国では乗車コードによって完全に淘汰されてしまった。その理由として、中国の交通カードが日本の交通系ICカードほど便利ではなかったこと以外に3点挙げられる。

 第1に、コロナ禍の期間中、健康コードが外出時に必携となったことである。スマホに健康コードを入れる習慣ができ、後にこれが乗車コードと統合されたため、外出時に乗車コードを使うようになった。第2に、アリババとテンセントという中国の2大ネット企業が競って乗車コードを開発したことも乗車コードの普及を後押しした。第3に、2012年以降、交通カードを購入する際に支払うデポジットに対して市民が不信感を持ち、その使途をめぐって訴訟沙汰にもなったため、市民が交通カードに対して反感を抱くようになったことも影響した可能性がある。

日本の交通機関におけるQRコード乗車の導入目的

 日本でも10年ほど前から交通機関においてQRコードを利用する動きがちらほらと見え始めている。その目的はICカードに代替するというよりも、従来の磁気乗車券に代えるものと位置づけられている。

 磁気乗車券と自動改札機は日本の技術力の結晶であり、改札機に乗車券を入れると高スピードで読み取られて出てくるような機械は日本以外ではなかなか目にすることができない。しかし、この仕組みの弱点はときどき機械に切符が詰まることである。2枚の乗車券を重ねて入れることのできる改札機は素晴らしい技術ではあるが、詰まりやすいようで、筆者の印象では東京駅の新幹線改札口ではかなりの確率で改札機のうちのどれか1台が修理中である。

 2014年10月、「ゆいレール」を運行する沖縄都市モノレールはQRコードを利用した乗車券を発売した。紙の乗車券にQRコードが印刷してあり、乗客は改札機に乗車券を入れるのではなく、読み取り面にかざすことで改札を通過する (日本経済新聞、2014)。

 さらに、阪神電鉄が2020年3月から2021年2月まで大阪梅田駅など5駅でQR乗車券の実証実験を実施し、2024年6月からQRコードを活用したデジタル乗車券サービスを開始すると発表した。これはウェブ上であらかじめ乗車券を購入するとスマホにQRコードを表示することができ、それを改札機の読み取り機にかざす仕組みである。

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