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Commentary

中国で「QRコードによる乗車」が拡大した理由
北京・上海・深圳――デジタル化で激変した地下鉄&バス②

華金玲
慶應義塾大学総合政策学部訪問講師(招聘)
社会・文化
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中国では約7億5000万人が地下鉄やバスの交通にモバイル決済を使っていると推測される。写真は北京市地下鉄の花園橋駅(筆者撮影)
中国では約7億5000万人が地下鉄やバスの交通にモバイル決済を使っていると推測される。写真は北京市地下鉄の花園橋駅(筆者撮影)

日本の交通系ICカードや中国でかつて使われていた交通カードは、あらかじめ現金をカードの中にチャージしておく仕組みだが、乗車コードはチャージする必要がない。乗車する前に起動し、QRコードをコードリーダーにかざすと、ピーという音とともに0.3秒ほどで改札口を通過し、下車後に料金が自分のアリペイないしウィーチャットペイの口座から引き落とされる。この決済を実現するシステムはかなり複雑で、交通システム、第三者決済システム、QRコードシステム、ユーザー端末、改札口のAFC(自動料金収受システム、Automated Fare Collection)間のデータ連携と相互照合、認証が必要不可欠になっている(余ほか)。

乗車コードを利用する際、スマホのアプリ(APP)やミニプログラムからインストールと承認、認証しておく必要があり(下の図 ①から⑦)、利用するときはスマホでミニプログラムを立ち上げて乗車コードを生成し、交通機関のAFC端末にかざす。交通機関から下車するとき、乗車コードを再び下車先のAFC端末にかざして改札口を出る(⑧から⑩)。その後、交通システムで乗車駅と下車駅間の乗車情報の照合が取れれば、決済が完了する(⑪から⑬)。

乗車コードの仕組み

乗車コードという名のサービスは、2018年にテンセントが北京で中国交通報新聞社と共催した「中国スマート交通大会」で初めて発表した。同時に飛行機に搭乗する際のQRコードなどもリリースしたが、最も注目を集めたのが乗車コードだった。当時はそれによって生成されるビッグデータが価値を持つと思われていたのである(界面新聞、2018)。

この乗車コードの仕組みは、コロナ禍の間に中国国民が外出する際の通行証となった健康コード(丸川、2021)の原型ともなった。健康コードは個人の移動履歴を管理することで感染防止に役立てられたのである(華、2022)。2022年から中国各地で健康コードを相次いで乗車コードに統合する動きがみられた(新京報、2022; 中国交通報、2022)(注1)。

「QRコードvs交通系ICカード」優れている乗車方式はどっち?

前回も述べたように日本ではSuicaなど交通系ICカードが普及していて、スマホにQRコードを表示する仕組みによってそれが取って代わられる可能性は当面ないように思われる。

利用者および技術の観点から見たとき、この両者はどちらが優れているだろうか。

交通系ICカードは、スマホとは別にカードを持ち歩かなくてはならないことが難点である。今どき外出時にスマホを忘れる人は稀だろうが、カードを携行することを忘れてしまうおそれがある。ただ、モバイルSuicaなどを利用してスマホに内蔵しておけばこの難点はある程度克服できる。ただし、交通系ICカードにロックをかけることはできないので、カードであれスマホであれ、それを置き忘れたとき、拾った人が勝手に使ってしまうリスクがある。その点、QRコードはスマホのプログラムを立ち上げない限り表示されないので、スマホの画面にロックをかけておけば、誰かに拾われても使われるリスクは小さい。

一方、QRコードの難点は改札機を通る前にあらかじめスマホを開いてアプリを立ち上げておかなければならないことである。その点、交通系ICカードはスピーディーである。カードを取り出して改札機にタッチする、あるいはモバイルSuicaであればスマホを改札機にタッチするだけでいい。専門的用語でいえばSuicaなどの交通系ICカードはNFC(Near Field Communication,近距離無線通信)という技術を使っている。カード内に入っている非接触ICチップを使い、カードとカードリーダーの間で通信をする。日本ではソニーが開発したType-Fと呼ばれるNFC「FeliCa」が主に利用されている。FeliCaの特徴は処理速度が約0.1秒ときわめて速いことで、日本の通勤ラッシュ時に滞りなく改札ができるよう、通信スピードを重視して開発された(立石、2010)。FeliCaはおサイフケータイ、スマホ、交通系ICカード、電子マネーのEdy、Nanaco、iD、QUICPay、さらには大学図書館の学生証、教員証などに日本では広く使われている。

ただ、日本以外ではオランダのNXPやアメリカのモトローラが開発したType A/Bと呼ばれるNFCのほうが広く普及している。これらは価格がFeliCaの1/3~1/4と安いからだ(立石、2010)。中国でかつて使われていた交通カードもこのタイプである。FeliCaは日本でだけ普及しているので、いわゆる「ガラパゴス化」の典型例に挙げられることも多い。

NFCの場合、FeliCaであれ、Type A/Bであれ、ユーザーの側はICチップを、地下鉄などのサービス提供者はICチップと通信する読み取り機を準備しなければならない。一方、QRコードの場合、ユーザーの側はスマホ、あるいは紙など、QRコードを表示できるものであれば何でもよい。サービス提供者の側ではカメラを備えた端末があればよい。スマホがすでに普及していれば、社会的には新たに投資する必要がほとんどない。ただし、地下鉄の改札口でQRコードを読み取るスピードは0.3秒であり、FeliCaの0.1秒より処理速度が遅いのが難点である。

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