Commentary
春節の帰省ラッシュ「春運」で起こる争奪戦
「00后」のネットスラングで知る現代中国④
第一は「買長乗短(長距離購入・短距離乗車、逆キセル)」である。運行効率の観点から、12306はまず全区間通しのチケットを優先的に販売し、その後、区間ごとの短距離券を段階的に放出する。この過程は数日に及ぶこともあり、もともと逼迫(ひっぱく)している春運の輸送力の下で、短距離券を求める利用者は帰省への切実さから、やむなく2倍、3倍の価格を支払ってでも全区間券を購入する場合がある。その結果、始発駅から満席であるはずにもかかわらず実際には始発駅では車内が閑散としていることがあり、数駅を経てようやく乗客が埋まっていくという現象が生じる。ネット上では、余分な費用を負担した購入者の不満と、空席があるのに乗れないと訴える未購入者の不満とが交錯する。
第二は「買短乗長(短距離購入・長距離乗車、計画的乗り越し)」である。目的地までの直通券が入手できないため、まず購入可能な区間だけ確保し、乗車後に車内で乗り越し手続きを試みる行為である。しかし、特に最新鋭の「復興号」では、定員超過の場合発車できないというシステム上の制限がある。短区間券のみを持つ乗客が車内で一斉に延長を求め、結果として定員超過となり発車不能となる事例が多発し、その場合、乗務員により下車を命じられ、見知らぬ都市に取り残される者も少なくない。さらに、乗り越し希望者の殺到により、後続駅から正規のチケットを所持する旅客が乗車できない事態も起こり得る。
加えて、多くの路線は通常時には正規運賃よりも大幅な割引価格(時には2割、3割引き水準)で販売されるが、春運期間中は多くの場合に割引が適用されない。こうした種々の不満は、しばしばネットでは「12306」あるいは「鉄総」(中国鉄路集団の前身である中国鉄路総公司の略称)への罵詈(ばり)雑言となって爆発する。どうしてもチケットを確保できない者は、高額な航空券を購入するか、自家用車で移動するほかない。
中国公安部の2025年末時点の統計では、全国の自動車保有台数は4億6900万台、運転免許保有者は5億5900万人に達する。中国交通運輸部の統計によれば、春運の移動延べ人数の約8割は自家用車によるものである。春節期間中は中国全土の高速道路の料金が免除されることが、その大きな要因であろう。中国には総延長500万キロメートルを超える道路網と約19万キロメートルの高速道路が存在するとはいえ、わずか9日間に延べ20億人の車両移動が集中することは、まさに壮観であると同時にカオスでもある。各地の高速道路料金所では数時間に及ぶ渋滞が毎年頻発するため、9日間の休暇があっても、渋滞回避と長距離移動を考慮し、2、3日前に出発する者も少なくない。毎年この時期になると、高速道路上で渋滞の緩和を待ちながら球技やダンスに興じる人々の映像がネット上で話題となる。もちろん交通規則違反ではあるのだが、現地の交通警察も含め、もはや諦めの境地である。
そして最も緊迫する瞬間は、休暇最終日の大年初七(旧暦1月7日)の夜である。もし24時を過ぎてもなお高速料金所を通過できない場合、料金免除の期間が終了してしまい、わずか数秒の差でも、数百キロメートル、時に千キロメートルを超える区間の高額な料金を支払うことになりかねないのである。春節休暇が終わるその瞬間は、春運特有の切実な興奮と緊張が凝縮されている。
「有銭没銭、回家過年」(金があろうがなかろうが、家に帰って年越しだ)という言い回しは、1990年代から毎年の春節のトレンドになってきた。すなわち、豊かであるか否かを問わず、せめて春節くらいは帰省して家族そろって団欒(だんらん)したいという願望である。なぜ中国人はこれほど万難を排してまで春節に帰省したがるのか?その理由は、中国人が家族と故郷に抱える強い思いにある。異郷で働き、あるいは学ぶ青壮年層が年に一度帰郷し、残された「空巣老人(両親)」や「留守児童(子供)」と一家団欒で過ごす春節の時間と、春運が持つ巨大な意義は言うまでもない。春節と春運は、中国の複雑な社会経済的現実と伝統文化とを総合的に体現する存在であると言えよう。
[1] この数字は、春節休暇の9日間に、自家用車、鉄道、航空機などの輸送手段によって地域を超えて移動した延べ人数を指す。ある人が休暇中に北京から成都へ往復すれば延べ2人となる。また、「地域を超えた移動」とは省をまたいでの移動および省内での市をまたいでの移動を含む。例えば浙江省の杭州市から寧波市へ家族4人で自家用車を使って往復したら延べ8人の移動となる。但し、直轄市(北京、上海、天津、重慶)のなかでの移動は地域を超えた移動とはみなさない。なお、2026年の全春節期間(2月2日から3月13日までの40日間)の地域を超えた移動は延べ94億人であった。
[2] 携程(Ctrip)などの旅行サイトを通じてもチケットを購入することはできるが、これらの旅行サイトも「12306」に代理発注しており、最終的には「12306」から買っていることになる。