Commentary
春節の帰省ラッシュ「春運」で起こる争奪戦
「00后」のネットスラングで知る現代中国④
「12306」で繰り広げられる「搶票」と「候補」
今、春運における交通手段を論じる際、インターネット上で最も熱い議論の的となるのが、「12306」でのいわゆる「搶票(チケット争奪戦)」である。「12306」とは「中国鉄路」(国営鉄道会社)のチケット販売の公式オンライン・プラットフォームのことであり、鉄道および高速鉄道のチケットは、窓口や販売機での販売を除き、このサイトを通じてのみ購入可能である[2]。なお、中国の鉄道では乗車券・特急券などが一体化しており、本稿ではこれらをまとめてチケットと呼ぶ。中国では空席がある場合には着席可能な「無座」(立ち席)もあるが、一般には全車指定席制を採用している。「無座」は最も安い座席指定チケットと同じ値段のため、普段は買う人もいないが、立ってでも高速鉄道に乗りたい春運の時期は事情が変わってくる。
12306の利用者は携帯電話番号でアカウント登録を行い、パスポートまたは身分証(中国人の出生時の戸籍登録の際に付与された、18桁のID番号などの個人情報を示すカード)と紐(ひも)付ける必要がある。従って、実名でのみチケットの購入が可能である。その代わり、鉄道のチケットも飛行機と同じくEチケットであり、紙の切符は必要とせず、改札機に身分証またはパスポートをかざすことで改札を通過できる。身分証カードで改札を通過する際には、身分証カードに入っている顔の画像とカメラで撮影された本人の顔との照合が自動的に行われるため、他人の身分証カードを借りて乗車することは不可能である。
ネットワークアカウントに身分証番号、電話番号を結び付け、さらに顔認証・指紋認証・掌紋認証・声紋認証などの生体情報を組み合わせた識別システムは、中国の主要なウェブサイトやアプリで広く導入されている。この巨大な認証体系の構築は、情報漏洩(ろうえい)の潜在的リスクがある一方で、現実には人々の生活と移動を著(いちじる)しく利便化してきたと言える。また、監督管理の強化と相まって、客観的には犯罪の抑制にも一定の効果を挙げている。加えて、全面禁煙と静音車両、乗り換え手続きの簡略化、通信回線の確保、座席QRコードでのサービス提供などの導入によって、中国における鉄道移動の利便性と快適性は、スピード以外でもかつてと比較して飛躍的に向上したと言えよう。
しかしながら、春運期間中は旅客流動量が急増し、平常時の列車本数では膨大な帰省需要を到底吸収しきれない。このため、12306は春節限定の多様な予防策を講じている。例えば、親元を離れて生活する学生や出稼ぎ労働者には、認証済みであれば春運期間のチケットを一般の発売開始より早く購入できる優遇措置が設けられている。また、同一乗客が行程の重複・矛盾するチケットを同時に購入したりキャンセル待ち登録したりできないよう制限を強化し、過度な買い占めを防止している。
キャンセル待ち(「候補」)とは、供給不足となった列車に対する補完的サービスである。乗車希望の列車の指定席が完売した場合、利用者はキャンセル待ち予約ができ、空席が生じた際には自動的に購入が成立する。さらに、キャンセル待ちの人数が一定規模に達し、車両一両分の需要に相当する場合には列車に増結が行われる。キャンセル待ちの人数がさらに多く、列車一便分に匹敵する場合には、臨時便が増発される。春運期間には深夜や未明に臨時列車が多数増発され、すでに引退した旧型車両が再投入されることもある。これらの旧型車両は運賃が極めて安く、例えば雲南省の昆明から上海への2200キロメートルを超える移動でも、日本円にしてわずか千円という列車がネットで話題となっている。
チケットを手に入れるための仁義なき戦い
それにもかかわらず、春運のチケット入手は依然として困難を極め、いくつかの笑うに笑えない現象を生んでいる。