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Commentary

著者に聞く⑬――銀迪さん
『中国鉄鋼業』(文眞堂、2025年8月)

銀迪
同志社大学商学部助教
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日中両国とも高炉一貫製鉄システムを基盤とし、大量のCO₂排出という課題を抱えているため、脱炭素化への対応では協力の可能性も期待される。写真は日中の要人多数が出席して行われた、上海の宝山製鉄所第1期工事の完成祝賀式。1985年11月26日(共同通信社)
日中両国とも高炉一貫製鉄システムを基盤とし、大量のCO₂排出という課題を抱えているため、脱炭素化への対応では協力の可能性も期待される。写真は日中の要人多数が出席して行われた、上海の宝山製鉄所第1期工事の完成祝賀式。1985年11月26日(共同通信社)

問3 出版される際にも研究の展開があったわけですね。それでは、執筆にあたって特に苦労したことは何でしょうか。また、それをどのように克服されたのでしょうか。

(銀)一つ目は、集めた実証材料をどのように理論的に整理するかという点でした。統計データなどの実証材料を収集しましたが、それらを単に記述するだけでなく、「生産システム」「企業」「産業」という3つの次元の分析枠組みの中で理論的な意味を見出すことに苦心しました。この困難については、先行研究を繰り返し読み直し、また指導教員との議論を通じて、分析の視座を高めていくことで克服しました。

2つ目は、日本語で執筆することの難しさです。中国語が母語である私にとって、学術的な日本語で正確かつ明瞭に論述することは大きな挑戦でした。正直に言えば、この点については完全には克服できたとは言えません。近年のAI技術の発展により、文章のチェックや表現の改善に生成AIを活用することで、執筆の質を向上させる努力を続けています。今後も、より良い日本語での学術表現を目指して精進していきたいと考えています。

なお、どの研究者も直面するデータや情報収集についても当然苦労はありました。ただし、中国鉄鋼業は比較的各種統計が整備されている業種であるため、多くの産業研究に取り組んでいる方々と比べれば、この面では恵まれていた方だと思います。

問4 本書は中国鉄鋼業の分散構造に対する、中国政府の産業集中化の推進を論じています(第6章)。21世紀以降における、政府の鉄鋼業産業政策の役割をどう評価されますか。

(銀)丸川が指摘しているように、21世紀以降の中国の鉄鋼産業政策は生産拡大を導くものではありませんでした。大手国有企業を支援してきましたが、宝鋼(現在の宝武集団)を除き、他の国有企業の実績は必ずしも満足のいくものではなかった一方、ほとんど支援対象にならなかった民営企業が逆に成長を遂げました(丸川, 2018; 丸川, 2025)。これは産業政策の意図しない結果として興味深い点です。

ただし、先進的な生産能力の形成においては一定の有効性を発揮したと思います。具体的には、最新鋭の設備や技術を備えた臨海製鉄所の建設促進です。政策支援のもと、2000年以降、中国では5つの臨海製鉄所が新設されました。それ以前、中国には厳密な意味での臨海製鉄所は存在していませんでした。ただし、これらがすべて国有企業によって運営されている点には留意が必要です。

今後は2つの点に注目したいと思います。一つは、産業政策が不合理な制限を撤廃するかどうかです。もう一つは、これらの臨海製鉄所の経営と生産のパフォーマンスです。高級鋼板の効率的な供給を実現できるのか、グリーンスチール(環境負荷の低い鉄鋼生産)という課題を担えるのか。これらは中国の鉄鋼産業政策の有効性を評価する上で重要な観察ポイントになると考えています。

問5 本書では直接の対象としているわけではありませんが、日本の鉄鋼業についてもしばしば言及されています。両国の鉄鋼業はどのような関係にあった(あるいは、ある)のでしょうか。競合する点と協力し合える点について、それぞれ教えていただけるでしょうか。

(銀)日中両国の鉄鋼業は、一世紀以上にわたる複雑な歴史的関係を持っており、大きく4つの時代に区分できます。第一に「半植民地の時代」(19世紀末から1945年)、第二に「隔絶の時代」(1945-1970年代初頭)、第三に「支援と投資が行われる時代」(1970年代-2000年代)、そして第四に「提携と競争が並存する複雑化の時代」(2010年以降)です。

第三の時代には、1972年の日中国交正常化後、日本が技術・資本提供者、中国が受け手という補完関係が成立していました。1978年には鄧小平副首相が新日本製鉄(当時)を訪れ、技術支援を要請した結果、上海宝山製鉄所の建設が実現しました。

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