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Commentary

著者に聞く⑬――銀迪さん
『中国鉄鋼業』(文眞堂、2025年8月)

銀迪
同志社大学商学部助教
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日中両国とも高炉一貫製鉄システムを基盤とし、大量のCO₂排出という課題を抱えているため、脱炭素化への対応では協力の可能性も期待される。写真は日中の要人多数が出席して行われた、上海の宝山製鉄所第1期工事の完成祝賀式。1985年11月26日(共同通信社)
日中両国とも高炉一貫製鉄システムを基盤とし、大量のCO₂排出という課題を抱えているため、脱炭素化への対応では協力の可能性も期待される。写真は日中の要人多数が出席して行われた、上海の宝山製鉄所第1期工事の完成祝賀式。1985年11月26日(共同通信社)

分析枠組み・分析方法の構築にあたっては、岡本(1984)を多く参照しています。私が岡本の提示した「生産システム」「企業」「産業」という3次元分析法を選択した理由は、この枠組みが技術や生産システムの特性から巨大企業による集中体制の形成メカニズムを解明できるものであり、実際にこの分析法を用いたことで、当初の認識とは全く異なる結論に到達したからです。

当初、私は日本の鉄鋼業のように、日本製鉄やJFEスチールといった巨大企業による寡占体制が効率的であり、中国の中小型鉄鋼メーカーが多数存在し、生産集中度が低い体制は非効率的で望ましくないと考えていました。そのため、中国も日本のように大型設備を普及させ、高級品生産比率を向上させ、大企業による集中体制へ早急に移行すべきだと思っていました。

しかし、岡本(1984)を学ぶ中で、この認識は根本から変わりました。日本の鉄鋼業の集中体制が効率的である理由は、「生産システム」「企業」「産業」という3つの次元から理解する必要があることを学びました。

具体的には、日本では「生産システム」の次元で大型生産システム(大型高炉-大型転炉-連続鋳造-ワイド・ホット・ストリップ・ミル)の技術的優位性が実現され、「企業」の次元でこれに立脚した巨大企業の優位性が確立し、「産業」の次元で企業間競争を通じて巨大企業が中小企業を排除・系列化していきました。つまり、巨大企業による寡占体制は、大型生産システムの技術的優位性に由来していたのです。

一方、この枠組みで中国の鉄鋼業を分析すると、日本とは異なる構造が見えてきました。「生産システム」の次元では、大型システムは一部に過ぎず、中小型システムが約半分の生産を担っていました。「企業」の次元では、巨大企業も中小型システムを併用していました。その結果、「産業」の次元では、一部製品領域でのみ巨大企業の寡占が形成され、その他の領域では分散構造が維持されたのです。

それでは、なぜ日本とは異なる構造になったのでしょうか。この問いに答えるため、私は岡本が論じた「生産構造と販売構造の整合性」という問題に着目しました。そして、中国の鉄鋼業の構造が異なるのは需要構造が異なるためではないかという仮説を立て、岡本の分析方法に独立した需要構造の分析を加えたのです。

需要構造の分析を追加した結果、中国では、大型生産システムの優位性を支える鋼材品種への需要は限られていたことが分かりました。巨大企業はこれらの分野において、大型生産システムの優位性を発揮し寡占を実現しましたが、それ以外では実現できませんでした。こうして、中国における中小型鉄鋼メーカーがたくさん存在することも、構造が集中的ではないことも、実は需要構造に対応した合理的なものだったことが分かりました。

これは私の当初の認識を完全に覆す発見でした。中国の分散構造は非効率的なのではなく、中国特有の需要構造に適応した効率的な構造だったのです。この結論に到達するためには、「生産システム」「企業」「産業」という3つの次元から体系的に分析し、さらに需要構造という要素を加える必要があったのです。

博士論文はこの研究の実証面の大部分を解決しましたが、理論面が弱いという課題が残りました。本として出版するにあたり、理論的整理に力を注ぎ、特にこの実証結果が中国経済研究にとってどのような意味を持つのかを明確にすることに努めました。具体的には、政府が産業集中化を推進する一方で、実際には集中構造が形成されないという主題を中心に据えました。また、博士論文が2015年までを扱っていたのに対し、本書では2016年に政府が最も厳格な過剰生産能力削減政策を実施した5年間の変化を追加し、この期間における国有企業と民営企業の競争関係についても論じることができました。

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