Commentary
著者に聞く⑫――高暁彦さん
『毛沢東時代の統治と民兵』(名古屋大学出版会、2025年10月)
問6 現在の中国では、民兵組織と呼べる組織は残っているのでしょうか。また現在の中国の統治のあり方、特に集団の暴力の管理から見て、当時の民兵が残した影響はどの辺りにあるとお考えでしょうか。
(高)民兵は現在も組織としては存続していますが、毛沢東時代と比べると、人員規模が大幅に減少しており、統治面で発揮してきた機能も大きく縮小しています。組織的な動員が行われるのは、災害対応や辺境地域でのパトロールなど、限られた場面にとどまっていると考えられます。毛沢東時代のように、政策の行き詰まりに直面した際、局面打開のために民兵が大規模かつ頻繁に動員されることは、現在ではきわめて少なくなっていると言えます。
民兵が統治の現場に直接登場する場面は減少したとはいえ、民間の暴力が統治の現場から完全に退場したことを意味するわけではありません。2000年代以降には、民間の警備会社やボランティア団体、さらにはヤクザなどの非公式な暴力集団が政権によって動員され、民衆の不満や暴動に対応していた事実が頻繁に確認されています。トロント大学のリネット・オン(Lynette Ong)教授の著作 Outsourcing Repression:Everyday State Power in Contemporary China(外注される鎮圧:日常的な国家権力と現代中国) では、こうした事例が数多く取り上げられ、体系的に分析されています。Ong先生の研究を踏まえると、民間の暴力を統治に用いるという、毛沢東時代の統治手法が、形を変えつつも現在にまで一定程度継続していると見ることも可能でしょう。
ただし、このような強引な統治手法が、近年において党中央から問題視されていることも事実です。地方幹部が非公式な暴力集団を動員して民衆の不満に対処する統治手法は、結果として地方幹部の権力を肥大化させる危険性を伴います。これは、2010年代以降、政権が一貫して回避しようとしてきた事態でもあります。実際、いわゆる「黒社会(ヤクザ)」と呼ばれる犯罪集団が2010年代以降に集中的に取り締まられていることからも、党中央がこうした問題を強く意識し、是正を図ろうとしていることがうかがえます。
問7 最後に、この記事をご覧の方に、特にこれから中華人民共和国の歴史を研究したいと考えている学生さん(大学生、大学院生)にメッセージをお願いします。
(高)歴史研究はとても楽しいということを伝えたいです。歴史とは一過性の出来事であり、過ぎ去った出来事そのものは永遠に失われてしまいます。しかし、史料という媒介を通じて、私たちは過去を知ることができます。そして、その史料を手に取ったあなただけが、その過去を掘り起こすことになるのです。それは、とてもわくわくする経験ではないでしょうか。 中華人民共和国に関する歴史研究には、いまだ十分に掘り起こされていないテーマが数多くあります。ぜひ、歴史研究の世界に足を踏み入れ、新たな発見に挑戦していただければと思います。
高さん、ありがとうございました。この記事をご覧になって、毛沢東時代の中国に興味を持たれた方は、ぜひ『毛沢東時代の統治と民兵』を手に取ってみてください。
