Commentary
中国のネットフェミニズム:男女対立が激化しつつある要因とは
「00后」のネットスラングで知る現代中国②
中国のインターネット経済の興隆に伴い、ネットで注目されることでお金を稼げるようになった。様々なSNSでアクセス数を増やすと、サイト運営から提供される奨励金以外に、広告業務などを通じて高額な広告収入を得られる。そのため、大手会社から個人に至るまで、必死にユーザーの注目を集めようと頑張っている。その中で、言及するだけでもすぐ話題になるものは、「流量密碼(バズワード。アクセス数を向上させる鍵)」と呼ばれている。そこで、近年最も注目される「流量密碼」の一つが、「女権(フェミニズム)」である。
本稿では、ネット空間における若者の言論に焦点を当て、「女権」がなぜ中国のインターネットで「流量密碼」となったのか、その端緒を追う。「女権」は女性の権利と男女平等を主張しており、必ずしも男性に反対することを意味しているわけではない。しかし結果から見ると、フェミニズムをめぐる話題がネット空間で熱く議論される度に、男女間の摩擦と対立がますます激化する傾向にある。ユーザーたちの炎上に伴い、フェミニズムの注目度がますます高まり、それが新しい摩擦を引き起こすという悪循環が生じている。
このような悪循環の中で、急進的に女性の権利を擁護し主張する人々は「女拳(「ケンカ腰の女性」といった意味)」や「打拳(「ケンカする」といった意味)」として嫌悪の対象にされる。他方、フェミニズムを支持しない、あるいは反対する人々は、「蝻人(イナゴの人。「蝻」と「男」は中国語で同じ発音)」と嘲笑される。男女対立の激化とフェミニズムの台頭は、中国の婚姻率と出生率の低下傾向にも影響を与えている可能性がある。人口問題は経済の持続的発展に影響するという政府の懸念を踏まえると、男女問題を理解することは中国の現状を分析する際の重要な一環であると言える。
伝統文化vs社会主義思想:「三従四徳」から「婦女能頂半辺天」へ
中国は数千年の歴史があり、伝統文化の影響は根深いものである。儒学では特に宋明理学(朱子学)の登場以来、女性の徳行に関して「三従四徳(三つの服従と四つの女徳)」が社会の基層レベルにまで浸透した。「三従」は「幼時従父、嫁後従夫、夫死従子(結婚の前は父に服従し、結婚の後は夫に服従し、夫が死んだら息子に服従する)」ことであり、「四徳」は「婦徳、婦言、婦容、婦功(女性の注意すべき道徳、言葉づかい、身だしなみ、仕事)」を意味している。また、家族の「香火(一族の血統、特に息子が代々家を継承することを指す)」を大切にする伝統に基づいて、「重男軽女(息子を重視し娘を軽視)」の思想が数千年も続いてきた。「不孝有三、無後為大(親不孝には三つあり、そのうち後継ぎがないという罪は最も大きい)」という言い方がなされるが、この中の後継ぎとは男子を指している。要するに、中国では歴史的・文化的背景から、女性は男性より根本的に低い地位に置かれている。
中華人民共和国成立後、世界中に広がるフェミニズム運動と男女平等を謳(うた)う社会主義思想の影響で、毛沢東は「婦女能頂半辺天(女性も男性と同じく天の半分を支えられる)」と提唱し、男性と女性は共に社会を建設する平等な労働者であると断言した。また、新政府は3月8日の国際婦女節(国際女性デー)を国の法定休日として制定し、男女の同一労働同一賃金を規定するなど、男女平等の実現に力を入れた。さらに文化大革命などの政治運動も伝統文化の影響を破ろうとし、結果としては「重男軽女」の思想に一定の打撃を与えた。
1979年から、一人っ子政策が実施された。子供が娘しかいない家庭では、娘を唯一の事実上の後継ぎとして認めざるを得なくなった。しかし他方、女児の堕胎及び産み捨てや産み殺しなどの惨劇が各地で多く発生したため、政府が法律によって出生前の胎児の性別鑑定を禁止するまでになった。それでもなお、一部の地域では「拼男宝(何が何でも息子を産む)」現象が依然として存在し、罰金や処罰を受けても息子が生まれるまで子供を産み続けるケースも少なくない。そのため、農村地域において、政府はやむをえず一人っ子政策を緩和し、「一人目の子供が女子なら二人目の子供を出産できる」と規定を変更した。2010年代以降、中国政府が二人目、三人目の子供の出産を徐々に許可することによって、「拼男宝」の現象は再び高まった。この現象を皮肉るために、「家里有皇位(家には男性家長の玉座があるので後継ぎが必要)」というスラングも誕生した。
こうして数人の姉と一人の弟という構成の家庭が中国で多く見られ、そこで生まれたネットスラングもあった。姉妹たちは「扶弟魔(読み方はハリーポッターの中の悪役であるヴォルデモートの中国語訳と同じ。弟をかいがいしく世話する人、という意味)」と呼ばれ、唯一の弟は吸血鬼ならぬ「吸姐鬼(お姉さんに依存する人、という意味)」と揶揄(やゆ)される。弟のために姉たちが金銭や労力を費やす現象は珍しくないようである。
このような歴史的、文化的、現実的背景の中で、若い女性を中心とする中国のフェミニストたちはますます怒りを感じ、ネット空間において反抗の声を上げ始めたのである。
「剰女」vs「普信男」:婚活市場で集中する対立
男女の対立が最も集中し、衝突が起こりやすいのは、男性と女性が直接に接触する婚活市場であろう。前述の通り、「伝宗接代(家族の血を継続させる)」という伝統思想の影響で、成人した男女は早く結婚して子供を持つことが今でも望ましいと見なされている。そのため、20代の男女は周囲の親族、友人、同僚、上司などからの「催婚(早く結婚しろ)」や「催生(早く子を産め)」の圧力に直面する。このような社会的風潮の中、20代後半を過ぎても結婚・出産しない女性は「剰女(余った女)」と呼ばれている。学業や仕事でどれほど成功しても、一度「剰女」というレッテルを貼られると、周囲の人々や婚活市場から嫌われる存在となり、女性として人生の失敗者と判断される。
これらの「剰女」はなぜ取り残されるのか。直接的な原因は、彼女たちがより長く高等教育を受けたり、就職後にキャリアの成功を追求したりすることで、結婚の歩みを遅らせたためである。したがって、「剰女」になるのは得てして都市部の高学歴で高収入の女性たちである。彼女たちはフェミニストと重なることが多く、このネガティブなレッテルに対して彼女たちは常に不満を持ち、反抗する道を選んだ。その表現の一つが「普信男(勘違い男)」というネット空間を席巻(せっけん)したスラングである。
「普信男」というスラングは2020年に中国の人気トークショーで生まれたもので、平凡なくせに自信満々な男を指している。トークショーでは、自分は恋愛や婚活市場の中で女性にちやほやされて当然だと思い込んでいる、平凡な男性を馬鹿にする文脈で使われていた。それがネット上に飛び火し、女性の共感と男性の炎上を引き起こしたことで世論が沸騰した。似たような言葉には「爹味(親父くさい。他人に説教することが好きな行為を指す)」や「油膩(脂っこくてくどい味。いつもなれなれしく話すか、上から目線で説教する行為を指す)」などが挙げられる。
これらの現象は、前述の家庭や社会での「重男軽女」の傾向から生み出されたと思われる。成長過程で男性は女性よりも溺愛され、肯定されることが多いため、男性は高い自己認識と自己中心的な心理を持つようになる。また、家庭の中では、息子は娘より優先的に扱われることが一般的である。そのため、それらの「息子」である男性たちは、社会の中でも「娘」である女性より優先的に扱われるのが当たり前と考えられがちである。こうした不均等な状態により、女性の中には長年にわたり不満がくすぶり続け、ネットで取り上げられた瞬間に議論の大爆発を引き起こした。こうして、女性の賛同と男性の怒りが共に湧き上がり、男女対立の激戦は新たな段階を迎えた。
「家暴」vs「感情糾紛」:社会問題の裏にある法制度の問題
伝統文化と世論の風潮のほか、「女権」問題の根源にはさらに現行法制度という側面もある。実は近年、男女問題と関わる刑事事件や民事事件が常に中国で熱い話題になっている。
「婦女能頂半辺天」という毛沢東の言葉の通り、中国では多く女性が職場に進出している。しかし伝統文化などの影響で、女性は働いているのに、依然として家庭や育児において男性よりも多くの義務を負うことが求められている。すなわち、中国の女性は実質上、職場と家庭からの二重負担を引き受けている。中国の世論において、女性たちが専業主婦になるという選択を尊重するべきだ、専業主婦の法的権益を保護するべきだ、という提言は存在するが、いまだに声が弱い。中国の婚姻法からすると、専業主婦は単に無職と見なされる。専業主婦は離婚の際には経済力がないため親権を取りにくく、さらに財産分与も収入の割合通りに分配するため、無職や無収入の配偶者は圧倒的に不利となる。いわゆる「浄身出戸(身ぐるみはがされ追い出される。自由の身以外、いかなる財産や権利も得られずに離婚して家を出る)」の惨状である。
離婚などの民事案件における男女対立のほか、刑事事件に対する見方においても、男女対立が生じるという問題さえ存在する。夫婦や恋人の間に傷害事件が発生したとき、加害者に刑事罰が下されることは稀(まれ)である。明らかに「家暴(家庭内暴力)」事件なのに、「感情糾紛(恋愛関係に関する揉め事)」として警察に扱われ、処罰や立件を免れるニュースがネットで注目を集めている。中国には「清官難断家務事(優れた官僚でも家庭内の争いを処理し難い)」という熟語がある。しかし、夫婦間あるいは恋人同士とはいっても、暴力行為を見逃すことはリスクが高い。妻が長期的な「家暴」を受けているのに夫が立件されず、離婚したいのに不可と裁定され、ついには夫によって殺されてしまう事件がしばしばトップニュースとなる。さらに、こうした事件をテーマとする小説や映画なども数多く出されている。女性がいかに不安定な立場に置かれ、それに対する怒りがいかに激しいかは言うまでもない。
法律で自分の権利や安全を守ることができない不安から、女性は結婚や恋愛に対してより慎重になることも想像に難くない。しかし、この防衛的な心理はまた、男性に不満や不公平感を抱かせる。一定の条件を満たさなければ結婚に同意できないという風潮が、ますます一般的になった。すなわち、「天価彩礼(天井知らずの持参金。結婚の際に男性の両親から女性の両親に贈る高額のお祝い金)」や「買房買車(男性が結婚のために住宅と車を購入)」などの結婚条件である。高額となった不動産に代表される生活コストの上昇という現実に加え、男性は結婚したければこの高いコストを負担せざるを得ず、巨大なプレッシャーに直面し、女性に対する不満も溜(た)まっている。数多くの要因が絡み合う悪循環の中で、ネット空間における男女対立は一層激化している。