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Commentary

中国のネットフェミニズム:男女対立が激化しつつある要因とは
「00后」のネットスラングで知る現代中国②

張志和
東京大学大学院博士課程
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フェミニズムをめぐる話題がネット空間で熱く議論される度に、男女間の対立はますます激化する傾向にある。写真は結婚証を手にする夫婦。2023年2月(共同通信社)
フェミニズムをめぐる話題がネット空間で熱く議論される度に、男女間の対立はますます激化する傾向にある。写真は結婚証を手にする夫婦。2023年2月(共同通信社)

 離婚などの民事案件における男女対立のほか、刑事事件に対する見方においても、男女対立が生じるという問題さえ存在する。夫婦や恋人の間に傷害事件が発生したとき、加害者に刑事罰が下されることは稀(まれ)である。明らかに「家暴(家庭内暴力)」事件なのに、「感情糾紛(恋愛関係に関する揉め事)」として警察に扱われ、処罰や立件を免れるニュースがネットで注目を集めている。中国には「清官難断家務事(優れた官僚でも家庭内の争いを処理し難い)」という熟語がある。しかし、夫婦間あるいは恋人同士とはいっても、暴力行為を見逃すことはリスクが高い。妻が長期的な「家暴」を受けているのに夫が立件されず、離婚したいのに不可と裁定され、ついには夫によって殺されてしまう事件がしばしばトップニュースとなる。さらに、こうした事件をテーマとする小説や映画なども数多く出されている。女性がいかに不安定な立場に置かれ、それに対する怒りがいかに激しいかは言うまでもない。

 法律で自分の権利や安全を守ることができない不安から、女性は結婚や恋愛に対してより慎重になることも想像に難くない。しかし、この防衛的な心理はまた、男性に不満や不公平感を抱かせる。一定の条件を満たさなければ結婚に同意できないという風潮が、ますます一般的になった。すなわち、「天価彩礼(天井知らずの持参金。結婚の際に男性の両親から女性の両親に贈る高額のお祝い金)」や「買房買車(男性が結婚のために住宅と車を購入)」などの結婚条件である。高額となった不動産に代表される生活コストの上昇という現実に加え、男性は結婚したければこの高いコストを負担せざるを得ず、巨大なプレッシャーに直面し、女性に対する不満も溜(た)まっている。数多くの要因が絡み合う悪循環の中で、ネット空間における男女対立は一層激化している。

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