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Commentary

中国のネットフェミニズム:男女対立が激化しつつある要因とは
「00后」のネットスラングで知る現代中国②

張志和
東京大学大学院博士課程
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フェミニズムをめぐる話題がネット空間で熱く議論される度に、男女間の対立はますます激化する傾向にある。写真は結婚証を手にする夫婦。2023年2月(共同通信社)
フェミニズムをめぐる話題がネット空間で熱く議論される度に、男女間の対立はますます激化する傾向にある。写真は結婚証を手にする夫婦。2023年2月(共同通信社)

 これらの「剰女」はなぜ取り残されるのか。直接的な原因は、彼女たちがより長く高等教育を受けたり、就職後にキャリアの成功を追求したりすることで、結婚の歩みを遅らせたためである。したがって、「剰女」になるのは得てして都市部の高学歴で高収入の女性たちである。彼女たちはフェミニストと重なることが多く、このネガティブなレッテルに対して彼女たちは常に不満を持ち、反抗する道を選んだ。その表現の一つが「普信男(勘違い男)」というネット空間を席巻(せっけん)したスラングである。

 「普信男」というスラングは2020年に中国の人気トークショーで生まれたもので、平凡なくせに自信満々な男を指している。トークショーでは、自分は恋愛や婚活市場の中で女性にちやほやされて当然だと思い込んでいる、平凡な男性を馬鹿にする文脈で使われていた。それがネット上に飛び火し、女性の共感と男性の炎上を引き起こしたことで世論が沸騰した。似たような言葉には「爹味(親父くさい。他人に説教することが好きな行為を指す)」や「油膩(脂っこくてくどい味。いつもなれなれしく話すか、上から目線で説教する行為を指す)」などが挙げられる。

 これらの現象は、前述の家庭や社会での「重男軽女」の傾向から生み出されたと思われる。成長過程で男性は女性よりも溺愛され、肯定されることが多いため、男性は高い自己認識と自己中心的な心理を持つようになる。また、家庭の中では、息子は娘より優先的に扱われることが一般的である。そのため、それらの「息子」である男性たちは、社会の中でも「娘」である女性より優先的に扱われるのが当たり前と考えられがちである。こうした不均等な状態により、女性の中には長年にわたり不満がくすぶり続け、ネットで取り上げられた瞬間に議論の大爆発を引き起こした。こうして、女性の賛同と男性の怒りが共に湧き上がり、男女対立の激戦は新たな段階を迎えた。

「家暴」vs「感情糾紛」:社会問題の裏にある法制度の問題

 伝統文化と世論の風潮のほか、「女権」問題の根源にはさらに現行法制度という側面もある。実は近年、男女問題と関わる刑事事件や民事事件が常に中国で熱い話題になっている。

 「婦女能頂半辺天」という毛沢東の言葉の通り、中国では多く女性が職場に進出している。しかし伝統文化などの影響で、女性は働いているのに、依然として家庭や育児において男性よりも多くの義務を負うことが求められている。すなわち、中国の女性は実質上、職場と家庭からの二重負担を引き受けている。中国の世論において、女性たちが専業主婦になるという選択を尊重するべきだ、専業主婦の法的権益を保護するべきだ、という提言は存在するが、いまだに声が弱い。中国の婚姻法からすると、専業主婦は単に無職と見なされる。専業主婦は離婚の際には経済力がないため親権を取りにくく、さらに財産分与も収入の割合通りに分配するため、無職や無収入の配偶者は圧倒的に不利となる。いわゆる「浄身出戸(身ぐるみはがされ追い出される。自由の身以外、いかなる財産や権利も得られずに離婚して家を出る)」の惨状である。

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