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Commentary

中国のネットフェミニズム:男女対立が激化しつつある要因とは
「00后」のネットスラングで知る現代中国②

張志和
東京大学大学院博士課程
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フェミニズムをめぐる話題がネット空間で熱く議論される度に、男女間の対立はますます激化する傾向にある。写真は結婚証を手にする夫婦。2023年2月(共同通信社)
フェミニズムをめぐる話題がネット空間で熱く議論される度に、男女間の対立はますます激化する傾向にある。写真は結婚証を手にする夫婦。2023年2月(共同通信社)

 中国のインターネット経済の興隆に伴い、ネットで注目されることでお金を稼げるようになった。様々なSNSでアクセス数を増やすと、サイト運営から提供される奨励金以外に、広告業務などを通じて高額な広告収入を得られる。そのため、大手会社から個人に至るまで、必死にユーザーの注目を集めようと頑張っている。その中で、言及するだけでもすぐ話題になるものは、「流量密碼(バズワード。アクセス数を向上させる鍵)」と呼ばれている。そこで、近年最も注目される「流量密碼」の一つが、「女権(フェミニズム)」である。

 本稿では、ネット空間における若者の言論に焦点を当て、「女権」がなぜ中国のインターネットで「流量密碼」となったのか、その端緒を追う。「女権」は女性の権利と男女平等を主張しており、必ずしも男性に反対することを意味しているわけではない。しかし結果から見ると、フェミニズムをめぐる話題がネット空間で熱く議論される度に、男女間の摩擦と対立がますます激化する傾向にある。ユーザーたちの炎上に伴い、フェミニズムの注目度がますます高まり、それが新しい摩擦を引き起こすという悪循環が生じている。

 このような悪循環の中で、急進的に女性の権利を擁護し主張する人々は「女拳(「ケンカ腰の女性」といった意味)」や「打拳(「ケンカする」といった意味)」として嫌悪の対象にされる。他方、フェミニズムを支持しない、あるいは反対する人々は、「蝻人(イナゴの人。「蝻」と「男」は中国語で同じ発音)」と嘲笑される。男女対立の激化とフェミニズムの台頭は、中国の婚姻率と出生率の低下傾向にも影響を与えている可能性がある。人口問題は経済の持続的発展に影響するという政府の懸念を踏まえると、男女問題を理解することは中国の現状を分析する際の重要な一環であると言える。

伝統文化vs社会主義思想:「三従四徳」から「婦女能頂半辺天」へ

 中国は数千年の歴史があり、伝統文化の影響は根深いものである。儒学では特に宋明理学(朱子学)の登場以来、女性の徳行に関して「三従四徳(三つの服従と四つの女徳)」が社会の基層レベルにまで浸透した。「三従」は「幼時従父、嫁後従夫、夫死従子(結婚の前は父に服従し、結婚の後は夫に服従し、夫が死んだら息子に服従する)」ことであり、「四徳」は「婦徳、婦言、婦容、婦功(女性の注意すべき道徳、言葉づかい、身だしなみ、仕事)」を意味している。また、家族の「香火(一族の血統、特に息子が代々家を継承することを指す)」を大切にする伝統に基づいて、「重男軽女(息子を重視し娘を軽視)」の思想が数千年も続いてきた。「不孝有三、無後為大(親不孝には三つあり、そのうち後継ぎがないという罪は最も大きい)」という言い方がなされるが、この中の後継ぎとは男子を指している。要するに、中国では歴史的・文化的背景から、女性は男性より根本的に低い地位に置かれている。

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