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Commentary

日本は力を用いて迫る中国といかに向き合うか
したたかな外交で「競争と協力」を同時に進めよ

高原明生
東京女子大学特別客員教授
政治
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45年前の1978年10月23日、首相官邸で行われた日中平和友好条約批准書交換式で握手する黄華外相(左から2人目)と園田直外相。左端は鄧小平中国副首相、右端は福田赳夫首相(写真:共同通信IMAGE LINK)
45年前の1978年10月23日、首相官邸で行われた日中平和友好条約批准書交換式で握手する黄華外相(左から2人目)と園田直外相。左端は鄧小平中国副首相、右端は福田赳夫首相(写真:共同通信IMAGE LINK)

 ところが、中国経済が大きくなり、国力の逆転が生じるようになると、経済利益を軸にした日中関係は維持されなくなってきました。欧米の経済界も中国への関心を高めるにつれて、日本から中国への投資額、あるいは日本と中国との貿易額が全体に占める割合は低下します。経済利益が日中関係に及ぼす影響力は、なくなりはしないもののかつてよりは弱くなりました。その反面、尖閣をめぐる衝突など中国の海洋進出によって安全保障の意味合いがより一層大きくなってきたのです。

 2022年の日中関係を4要因モデルで図式化すると、国際環境と安全保障が重みを増し、国民感情や国内政治に影響を及ぼすようになった。同時に、国民感情はもちろん国内政治に影響を与えます。今は、諸要因がこのように連関する回路ができているといえるでしょう。

党内の権力闘争という「横軸」で完璧な勝利を収めた

 日中関係に作用する要因として国際環境と安全保障が持つ影響力は、習近平体制の強権化によって、さらに大きくなる傾向にあります。

 2022年10月に開かれた、5年に1度の中国共産党大会を経て、習近平政権はこれまでの慣例を破って3期目に突入しました。その時点で習近平氏は69歳。党の最高指導部に相当する政治局常務委員には、67歳以下であれば留任し、68歳以上なら引退する「七上八下」という不文律のルールが存在するとされてきましたが、それが破られた。習氏についてもう年齢制限は実質的に意味をなしません。習近平氏は4期目もやるつもりでしょう。対抗勢力となりうる李克強氏ら共産主義青年団(共青団)系幹部は政治局から排除されてしまいました。

 2023年3月に開かれた、国会に相当する全国人民代表大会(全人代)では国家機構の指導者の人事を刷新し、習近平氏の側近である李強氏が首相のポストを得ました。李強氏は副首相の経験を経ずに就任しましたが、これも慣例を破った人事で、習近平氏の抜てきがあったと見られます。毛沢東時代には周恩来首相ら古参の幹部がいました。今は習近平氏に意見できるような人が見当たらない。習氏は長老たちも黙らせてしまいました。中国政治の「横軸」、すなわち党内の高層政治、権力闘争で習近平氏はほぼ完璧な勝利を収め、天下平定したといえます。 

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