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Commentary

少数民族統治に起用される畑違いの政治エリート
新疆ウイグル自治区トップの馬興瑞とは何者か

熊倉潤
法政大学法学部国際政治学科教授
政治
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新疆ウイグル自治区のカシュガル旧市街。再開発が進みつつある(筆者撮影)
新疆ウイグル自治区のカシュガル旧市街。再開発が進みつつある(筆者撮影)

少数民族政策の面でも、2020年12月、国家民族事務委員会主任がモンゴル族のバータル(巴特爾)から漢人の陳小江に代えられた。同主任はウランフ(烏蘭夫)以来、長きにわたって少数民族が連続して就任した、いわば少数民族の指定席であった。そこに漢人の、しかも民族政策に直接関係のない水利畑を一貫して歩んできた人物を起用したため、これもまた慣行によらない人事として物議を醸した。

その後、同主任は、2022年6月に中央統一戦線部副部長、国務院僑務弁公室主任の潘岳に交代となった。潘岳は統一戦線部に移る前、中央社会主義学院党組書記として、習近平政権が「中華民族共同体意識」の確立を打ち出したのに呼応し、『中華民族共同体史綱』の編纂を推進したことで知られる(注5)。とはいえ潘岳も、少数民族地域への赴任の経験のない幹部であることには変わりない。同主任はそのような漢人幹部が起用されるポストになったといえよう。

国家統合の加速化を狙っている習政権

本稿において見てきた馬興瑞も、潘岳などと同じく、少数民族地域への赴任経験のない幹部である。前任者の陳全国が、チベット自治区党委員会書記を務め、そこでの統治の経験を買われて、新疆への横滑りを命じられたのとは対照的である。

むろん新疆ウイグル自治区の党委員会書記は、他の省や自治区と同様に、全国転勤する上級幹部が次々に着任しては離任するポジションであり、歴代の書記にもいろいろな経歴の人がいた。少数民族地域と縁もゆかりもなかった過去の書記には、王楽泉などがいる。しかし「航天」という専門性、また広東というつながりは、歴代の書記になかった要素である。技術者としての専門性については、文革世代が徐々に引退し、文革後に専門性をじっくり磨く機会を得た世代がいよいよ上層部に増えてきたということもあろう。

いずれにせよ、馬興瑞も明らかに別の畑で専門性を磨いてきた「畑違いの人物」であり、習近平政権は、新疆や他の少数民族地域にたくさんいる少数民族の扱い方を熟知する漢人幹部ではなく、あえて馬興瑞のような人物を新疆統治のかなめに送り込んだのである。その意味では、馬興瑞の人事も、近年顕著な「畑違いの人物」の任用の一環という面があるといえよう。

習近平政権は2期目以降、周辺地域の特殊性、専門性に基づく人事慣行を踏襲せず、それぞれの地域とそれまで無縁であった別の道の専門家をあえて要職に起用することで、周辺地域を管理、監督する布陣を固めている。換言すれば、そのような「畑違いの人物」の起用をつうじて、従来の幹部任用の垣根を取り払い、「新時代」の全国一体の国家統合を加速させていると考えられる。

(注1)公表されている馬興瑞のプロフィールは以下に見ることができる。央視網「人物簡歴:馬興瑞」2021年12月29日。人物简历:马兴瑞_新闻频道_央视网(cctv.com)

(注2)熊倉潤『新疆ウイグル自治区――中国共産党支配の70年』中央公論新社、2022年、220ページ。

(注3)「広東省党政代表団来疆考察対接対口支援工作」『新疆日報』2023年7月12日、第1版。https://xjrb.ts.cn/xjrb/20230712/211747.html

(注4)本段落及び次の段落は、下記の拙稿をもとにしている。「習近平政権が進める国民統合──新疆と香港の事例を中心に──」『習近平政権研究(中国研究会)』日本国際問題研究所、2023年、77-78ページ。https://www.jiia.or.jp/pdf/research/R04_China/01-05.pdf

(注5)星島網「中国観察:潘岳的民族融合観」2022年6月22日。https://std.stheadline.com/sc/kol/article/6971/%E6%94%BF%E5%95%86KOL-%E4%B8%AD%E5%9C%8B%E8%A7%80%E5%AF%9F-%E6%BD%98%E5%B2%B3%E7%9A%84%E6%B0%91%E6%97%8F%E8%9E%8D%E5%90%88%E8%A7%80

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