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Commentary

台湾の原発再稼働をめぐる攻防
与党・民進党の政策大転換とエネルギー問題の未来

早田健文
『台湾通信』代表
政治
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発再稼働の問題は、台湾で繰り返される政治的な対立の中で、いまだに解決の方向性が見えていない。写真は「公民投票」で再稼働の是非が問われた台湾南部・屏東県の台湾電力第3原発。2025年8月3日。(共同通信社)
発再稼働の問題は、台湾で繰り返される政治的な対立の中で、いまだに解決の方向性が見えていない。写真は「公民投票」で再稼働の是非が問われた台湾南部・屏東県の台湾電力第3原発。2025年8月3日。(共同通信社)

台湾において原発問題は、対中国関係と共に2大政治問題の1つである。台湾の与党・民進党は、野党時代からこれまで反原発を貫き、原子力発電所の稼働を全面的に停止させた。しかし、民進党はその政策を転換し、再稼働を目指す動きを見せている。

台湾の電力事情そのものを考えると、背に腹は代えられない状況にあるのも間違いない。台湾の基幹産業である半導体、さらにAI(人工知能)関連産業で電力需要が増えることが予想される中で、電力供給をどのように確保するか、台湾では深刻な問題として捉えられている。本稿では、原発をめぐる技術的な論議には触れず、台湾の原発がどのように政治に翻弄(ほんろう)されてきたかを見ていきたい。

原発再稼働ニュースの衝撃

台湾の民進党政権は、2025年5月17日、最後まで稼働していた第3原発2号機を停止させた。稼働許可期限の40年が到来したためだ。これによって、台湾ではすべての原発が稼働を停止し、長年の公約だった原発ゼロを達成した。

ところがそれからわずか半年で、衝撃的なニュースが走った。民進党政権下の台湾の経済部(経済産業省に相当)は同年11月27日、台湾電力から提出された原子力発電所の現況評価報告を承認した。これを受けて、第2原発と第3原発の再稼働計画が2026年3月に核能安全委員会(原子力規制委員会に相当)に提出される見通しとなった。そのうち、第3原発の安全点検は最短で1年半から2年が必要だと見込まれているため、このスケジュールだと、2027年にも原発再稼働が可能となる。卓栄泰・行政院長(首相に相当)はこれについて、立法院(議会)での答弁で「もし原子力が安全であれば、このスケジュールに沿って計画を進めることも検討できる」と語った。

台湾には原発が4つある。台湾電力のこの報告によると、最も古い第1原発は老朽化していて再稼働の可能性はない。しかし、第2原発と第3原発は再稼働できる可能性があり、現在も稼働時と同じレベルのメンテナンスが続けられているという。なお、第4原発は建設が凍結されたままになっており、完成していないため評価の対象とはならない。

第1原発と第2原発は、台湾の政治・経済の中心地である台北市からわずか20キロメートル余りの新北市に位置している。うち、福島第1原発と同様の古い沸騰水型軽水炉(BWR)の第2原発が、再稼働の検討対象となっている。また、停止したばかりでより有力な検討対象の第3原発は、台湾最南端の屏東(へいとう/ピンドン)県に位置しているが、台湾南部の中心都市で台湾最大の港湾がある高雄市から遠くない。

原発の再稼働がなぜ衝撃的なニュースかと言うと、原発撤廃は、与党・民進党にとって、台湾独立と並んで、「神主牌(神を祀る牌)」つまり最も重要な政策、あるいは党の精神の拠り所だと位置付けられてきたからだ。民進党は、原発撤廃を主張することによって支持や選挙での票を集めて来た。そして、その公約を実現したばかりである。原発再稼働は、民進党が大きく政策を転換し、存在意義であるはずの「神主牌」の1つを捨てることを意味する。民進党は本気なのか。多くの人が耳を疑った。

民進党の反原発の主張と台湾の反原発運動

民進党の反原発の主張は、これまで長年、何度も大きな政治的、社会的な波乱を引き起こしてきた。台湾の原発は、権威主義統治と言われる国民党の長期政権の下で、1970年代から1980年代に建設が進められ、第1~第3の原発が完成した。当時、戒厳令下だったこともあって、国民党が進める原発開発に反対することは難しかった。しかし、アメリカのスリーマイル島原発で1979年に事故が発生すると、台湾でも反原発運動が始まる。

1980年代になり、台湾の高度経済成長に必要な電力供給を支えるため、第4原発の建設計画が持ち上がると、反原発運動は第4原発の建設反対が焦点となる。同時にこの時代は、1986年の本格的野党である民進党の結成、1987年の戒厳令解除、1988年の台湾出身の李登輝総統の誕生などと、台湾の民主化が進んだ。反原発はタブーから解放され、国民党政権打倒の目標と結び付き、民進党の最も重要な主張の1つとなった。

ちなみに、第4原発の直接の受注元はアメリカのゼネラル・エレクトリックだが、1号機の原子炉は日立製作所、2号機の原子炉は東芝、発電機は三菱重工業が供給する予定だった。この原発は日米と深くかかわっている。

国民党は反対の声が高まる中でも、第4原発の建設を継続した。しかし、2000年に民進党の陳水扁氏(総統在任2000~2008年)が総統に当選し、台湾で戦後初の政権交代が実現する。すると、陳水扁政権はさっそく、反原発の公約を実行に移した。つまり、第4原発の建設を停止したのである。同年10月に工事中止を発表した。

ところが、当時、民進党は少数与党だった。引き続き立法院(議会)で多数を占めていた国民党は、第4原発の建設停止に強く反発し、建設継続を求める決議を行った。これにより、停止からわずか4カ月後の2001年2月に建設は再開された。民進党の反原発の主張は、ここで大きな打撃を受けることになる。

しかし、その後も反原発の運動は収まらなかった。そして、2011年に東日本大震災で福島第1原発の事故が発生した。同じ地震の多発地帯である台湾にとって、他人事とは思えない出来事だった。これを受けて、反原発運動が大きく盛り上がった。この時、政権は再び国民党に戻り、馬英九氏(総統在任2008~2016年)が総統を務めていた。数万人規模の大規模な反原発デモが繰り広げられる中で、馬英九政権は2014年に第4原発の建設を凍結すると発表し、2015年から3年間の凍結期間に入った。再開する場合は台湾の全有権者を対象とする「公民投票」(住民投票)にかけることになった。これ以降、第4原発の稼働・建設は現在まで停止したままとなっている。

一方で、原発賛成派の動きも続いた。2016年に蔡英文氏(総統在任2016~2024)が総統に当選し、民進党が政権に復帰すると、蔡英文政権は「電業法(電気事業法に相当)」を改正し、2025年までに原発を全廃することを法律条文に盛り込んだ。これに反発した原発賛成派の民間団体は、この条文の廃止を求める「公民投票」を発動した。この台湾の全有権者を対象とした「公民投票」は、2018年に実施され、賛成が589万票(59%)、反対が401万票(41%)で、成立した。つまり、この条文は無効となった。原発賛成派の勝利だった。

しかし、この「公民投票」が成立して条文は無効となっても、民進党による原発廃止に向けた動きは止まらなかった。そこで、原発推進派は再び「公民投票」を発動した。今度は、第4原発の凍結解除の是非を問うものだった。投票は2021年に実施され、賛成が380万票(47%)、反対が426万票(53%)で、不成立に終わった。今度は原発反対派の勝利だった。

ところが、2024年の総統選挙で、頼清徳氏(総統在任2024年~)が当選して民進党政権が続くことになったものの、立法院(議会)では民進党が過半数を失い、最大野党・国民党と第二野党・台湾民衆党(民衆党)が提携して主導権を握った。2025年5月、国民党と民衆党の支持で、原子炉の使用年限を20年延長する法案が可決した。

しかし、前述のように、2025年5月17日に稼働許可期限が到来したことから、民進党政権は第3原発2号機の稼働を停止し、これによって台湾のすべての原発が稼働を停止した。民進党が長年進めてきた反原発運動がついに成功したのである。

ただ、これで終わったわけではなかった。原発賛成派は、稼働を停止したばかりの第3原発の再稼働の是非を問う「公民投票」を発動した。同年8月23日に行われた投票で、賛成は434万票(74%)、反対は151万票(26%)だった。賛成が大幅に上回っているものの、投票率が30%にとどまり、賛成票数が全有権者数の25%以上という成立要件のハードルを越えることができず、不成立に終わった。

政争の具になりかねない原発再稼働

この「公民投票」は、原発反対派の勝利ではあったものの、賛成票の比率の高さを見ると、原発に対する世論の風向きが変わっていることを示していた。実はこの「公民投票」は、民進党が立法院での過半数奪還を目指して発動した国民党立法委員の大量リコール「大罷免」の2回目投票と同時に行われた。投票の結果、リコールは1件も成立せず、民進党の完全敗北に終わった。その経緯はここでは詳述しないが、原発に関する「公民投票」は、こうした政治的な動きと連動していた。そして、この「公民投票」から間もない同年11月27日に、民進党政権は突如、原子力発電所の現況評価報告を承認し、これによって第2原発と第3原発の再稼働の可能性が浮上してきたのだ。

この動きに対して、反応は様々だ。原発推進を主張する野党側からは、選挙を視野に入れた民進党の票集め戦略にすぎないとの見方が出た。台湾では2026年に統一地方選挙、2028年に総統選挙・立法委員選挙と、大きな選挙が控えている。世論が原発賛成に傾く中で、これは票を集めるためのポーズにすぎず、本気かどうか疑問だというわけだ。一方、民進党が「神主牌」の1つを捨てることで、支持者が離れるリスクもある。また、党内の強硬な反原発派を抑えることができるのかにも疑問が持たれる。

これまで民進党と歩みを共にしてきた反原発団体は、さっそく民進党の動きに反対を表明した。一方、従来から電力供給に対する不安を繰り返し表明してきた経済界は歓迎し、主要な経済団体、経済人が相次いで賛成を表明した。

頼清徳総統はこれについて、「原発の稼働を延長するかどうかについては、専門知識、科学技術に委ねる必要がある。安全に問題がなく、放射性廃棄物の処理に解決策があり、さらに社会的なコンセンサスが得られることが前提であり、その上で各種必要な手続きを進めるべきだ」と述べた。稼働の可否について明言はしていないが、原発の存在継続を拒否してもいないのは大きな変化だと言える。

なお、アメリカの動きも注目される。アメリカの台湾駐在代表は2025年に入って、台湾企業だけでなく、アメリカ企業も台湾のエネルギー問題を非常に懸念していると指摘した上で、「世界最大のエネルギー輸出国であるアメリカは、液化天然ガス、再生可能エネルギー、さらには原子力を含め、台湾にとって信頼できるエネルギー供給源となることができる」と語った。この発言は、アメリカによる台湾への原発売り込みを示唆したものだと受け止められている。

実は、頼清徳政権の原発政策の転換は、これまでも閣僚の発言などから多くの兆候があった。頼清徳総統本人も、温室効果ガス排出の問題に関連して、「将来の新しい先端的な原子力技術に対して、開放的な態度を保つ」と語っており、原子力そのものを拒否するわけではないとの考えを示していた。ただ、現時点で仮に原発政策を転換したとしても、建設を停止した第4原発を稼働するにしろ、まったく新しい技術を導入した原発を建設するにしろ、相当な時間がかかる。だとすれば、当面はすでに退役した旧式の古い原発の再稼働に頼るしかない。

日本以上に深刻な電力供給事情

そもそも、台湾での電力供給の問題はかなり深刻な状況にあることが以前から指摘されてきた。日本に似て資源がなく、化石燃料を輸入に頼らなければならない台湾で、エネルギー問題は日本以上に深刻だ。2024年において台湾の発電量に占める割合は、石炭、天然ガス、石油を合わせて火力が78%だった。再生可能エネルギーは12%、原子力は4.7%だ。再生可能エネルギーのうち、約半分が太陽光発電、残りが風力発電だ。

その一方で、温室効果ガスである二酸化炭素排出の問題で、台湾は2050年までに、排出量を実質ゼロにするネットゼロ排出を目指している。そのためには、火力発電を減らす必要がある。ところが、原発全廃で4.7%が失われ、火力への依存がさらに高まった。これは、ネットゼロ排出政策に逆行するものだ。原発がない状況で、台湾でネットゼロ排出を達成するには、再生可能エネルギーの割合を60%から70%にまで引き上げる必要があると推算されている。

しかし、台湾での再生可能エネルギーの開発は決して順調とは言えない。2024年の12%は、当初目標の20%から大きく遅れている。しかも、再生可能エネルギーの太陽光発電と風力発電で、このところ問題が相次いで露呈している。まず、土地の狭い台湾での太陽光発電所(メガソーラー)の設置に関しては、以前から与党関係者への利益供与が問題視されており、実際に汚職事件にもなっている。蔡英文・前総統ですら、再生可能エネルギーをめぐる汚職は厳しく取り締まるべきだ、と主張している。

こうした中で、2025年7月初めに台湾を襲った台風のため、10数万枚の太陽光パネルが吹き飛ばされ、大量の廃棄物が発生してしまった。被害額は約50億円と見られ、2000トンのゴミを処分しなければならなくなったのだが、その処理がなかなか進まず、環境への影響が批判の的となった。

被害を受けた太陽光パネルは、洪水防止用の貯水池など主に水上に設置されていたもので、台風の時のような強風に耐えるように設置されていたかどうか疑問視された。台湾は太陽光発電所を設置できる土地が限られているため、ダムや養殖用の池などの上に設置する方法が奨励されている。これまでも、こうした方式による太陽光パネルの設置は問題が多いと指摘されていたが、この台風被害によって、設置に関する規制を強化する動きも出ている。

一方、再生可能エネルギーとして有望視されている風力発電は、洋上風力発電が開発の重点となっている。ただ最近、台湾東部の地上での設置計画は、環境への影響の不安から地元の強い反対を受けており、今後の開発全体への影響が懸念される状況だ。地熱発電も試みられているが、まだ初歩的な段階だ。

安全保障のリスクとどう向き合うか

現在の台湾では原発ゼロと二酸化炭素ゼロは矛盾する。原発は二酸化炭素ゼロに貢献できる。しかし、原発には賛成だが、40年を超えた古い原発の再稼働は安全面で不安があり、再稼働には賛成できない、という声も聞く。立場によって異なる判断基準と情報が飛び交い、非常に矛盾した心理が錯綜する中で、台湾で原発をどうするのか、電力をどう確保していくのか。それに加えて、民進党政権の下で中国との関係が悪化する中で、「台湾有事」というものが本当にあるとすれば、原発を再稼働することは台湾の安全保障のリスクを高めることになる。それは日本の安全保障にも関係してくる。さらに、地震にどう対応するのか。台湾で繰り返される政治的な対立の中で、いまだに解決の方向性は見えていない。

台湾にとってのリスクは、「台湾有事」から連想されるような単純な軍事問題だけではない。たとえば、電力供給問題が迷走し、もし旧式の第2原発の再稼働も必要になれば、世代も経年数も新しい第4原発を運転していたよりもリスクが高くなる結果になりかねない。第4原発の建設停止のみが議論の中心になってきたため、代替エネルギーへの転換についての議論はおろそかになり、効果的な政策を進めてこなかったツケが、今回って来ている。

最後に、日本あるいは日本企業にとっても、台湾の原発政策の今後の動向は、はたしてビジネスチャンス(原発、再エネ、省エネ輸出など)なのか、あるいは安全保障におけるリスクとなるのか、多くの角度から見極めていく必要があるだろうことを指摘しておきたい。

台湾の原子力発電所

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