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Commentary

台湾の原発再稼働をめぐる攻防
与党・民進党の政策大転換とエネルギー問題の未来

早田健文
『台湾通信』代表
政治
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発再稼働の問題は、台湾で繰り返される政治的な対立の中で、いまだに解決の方向性が見えていない。写真は「公民投票」で再稼働の是非が問われた台湾南部・屏東県の台湾電力第3原発。2025年8月3日。(共同通信社)
発再稼働の問題は、台湾で繰り返される政治的な対立の中で、いまだに解決の方向性が見えていない。写真は「公民投票」で再稼働の是非が問われた台湾南部・屏東県の台湾電力第3原発。2025年8月3日。(共同通信社)

ところが、2024年の総統選挙で、頼清徳氏(総統在任2024年~)が当選して民進党政権が続くことになったものの、立法院(議会)では民進党が過半数を失い、最大野党・国民党と第二野党・台湾民衆党(民衆党)が提携して主導権を握った。2025年5月、国民党と民衆党の支持で、原子炉の使用年限を20年延長する法案が可決した。

しかし、前述のように、2025年5月17日に稼働許可期限が到来したことから、民進党政権は第3原発2号機の稼働を停止し、これによって台湾のすべての原発が稼働を停止した。民進党が長年進めてきた反原発運動がついに成功したのである。

ただ、これで終わったわけではなかった。原発賛成派は、稼働を停止したばかりの第3原発の再稼働の是非を問う「公民投票」を発動した。同年8月23日に行われた投票で、賛成は434万票(74%)、反対は151万票(26%)だった。賛成が大幅に上回っているものの、投票率が30%にとどまり、賛成票数が全有権者数の25%以上という成立要件のハードルを越えることができず、不成立に終わった。

政争の具になりかねない原発再稼働

この「公民投票」は、原発反対派の勝利ではあったものの、賛成票の比率の高さを見ると、原発に対する世論の風向きが変わっていることを示していた。実はこの「公民投票」は、民進党が立法院での過半数奪還を目指して発動した国民党立法委員の大量リコール「大罷免」の2回目投票と同時に行われた。投票の結果、リコールは1件も成立せず、民進党の完全敗北に終わった。その経緯はここでは詳述しないが、原発に関する「公民投票」は、こうした政治的な動きと連動していた。そして、この「公民投票」から間もない同年11月27日に、民進党政権は突如、原子力発電所の現況評価報告を承認し、これによって第2原発と第3原発の再稼働の可能性が浮上してきたのだ。

この動きに対して、反応は様々だ。原発推進を主張する野党側からは、選挙を視野に入れた民進党の票集め戦略にすぎないとの見方が出た。台湾では2026年に統一地方選挙、2028年に総統選挙・立法委員選挙と、大きな選挙が控えている。世論が原発賛成に傾く中で、これは票を集めるためのポーズにすぎず、本気かどうか疑問だというわけだ。一方、民進党が「神主牌」の1つを捨てることで、支持者が離れるリスクもある。また、党内の強硬な反原発派を抑えることができるのかにも疑問が持たれる。

これまで民進党と歩みを共にしてきた反原発団体は、さっそく民進党の動きに反対を表明した。一方、従来から電力供給に対する不安を繰り返し表明してきた経済界は歓迎し、主要な経済団体、経済人が相次いで賛成を表明した。

頼清徳総統はこれについて、「原発の稼働を延長するかどうかについては、専門知識、科学技術に委ねる必要がある。安全に問題がなく、放射性廃棄物の処理に解決策があり、さらに社会的なコンセンサスが得られることが前提であり、その上で各種必要な手続きを進めるべきだ」と述べた。稼働の可否について明言はしていないが、原発の存在継続を拒否してもいないのは大きな変化だと言える。

なお、アメリカの動きも注目される。アメリカの台湾駐在代表は2025年に入って、台湾企業だけでなく、アメリカ企業も台湾のエネルギー問題を非常に懸念していると指摘した上で、「世界最大のエネルギー輸出国であるアメリカは、液化天然ガス、再生可能エネルギー、さらには原子力を含め、台湾にとって信頼できるエネルギー供給源となることができる」と語った。この発言は、アメリカによる台湾への原発売り込みを示唆したものだと受け止められている。

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