Commentary
憲法法廷の機能不全が映す台湾憲政の危機
立法院による問題だらけの議事手続きと司法機能の麻痺
さらに、尤伯祥ら3人の大法官は協同意見書[6]において、台湾の自由民主憲政秩序が存亡の危機に瀕(ひん)しているとより厳しい言葉で警告した。それによれば、立法院は現任大法官が8人しかいない状況を知りながら評議参加に10人、違憲宣告に9人という定足数を設定し、総統指名の候補を二度否決したのであり、これを許せば立法院が人事同意権を通じて憲法改正なしに違憲審査制度を廃止できることを意味する。そのうえで20世紀以降の民主主義後退事例において司法への攻撃がほぼ常に最初の一手であったと指摘し、大法官は現任総数で判決を下す責任を負うと結論づけている。
一方、評議に参加しなかった蔡宗珍ら3名の大法官は「私的」に不同意意見書[7]を発表し、大法官が有効な法律に拘束されないと主張すれば法治国家の根幹が揺らぐと批判した。評議に参加した蔡彩貞大法官も、違憲認定のうち議会における「法案の票決方法」の問題に踏み込んだ点については、司法権による立法権への過度な介入であり、権力分立に抵触する疑いがあると指摘している。
野党二党は憲法法廷の判決を下した5人の大法官は「独裁の番犬」に成り下がったと批判し、立法院では総統の弾劾を推進すると同時に、当該大法官5人への非難決議案を提出し、評議参加人数が定足数に達していない憲法法廷の判決は無効だと主張している。行政院は判決を尊重する姿勢を示した。
大法官への党派性の「レッテル貼り」問題
野党は今回の憲法法廷の判決を下した5人の大法官を「緑色(民進党)大法官」と批判するが、今回評議に参加しなかった3人も含め、現任の大法官はすべて民進党が立法院で多数を占める蔡英文政権期(2016~24年)に指名・任命された大法官である。したがって、単純に「判決に賛成した側=民進党支持、反対した側=野党支持」といった党派性のレッテル貼りは、少なくとも判事の人事からは見当違いだと言える。
今回の憲法法廷の判決をよく読めば、極めて合理的で筋が通った内容だと言える。蔡宗珍ら評議に参加しなかった3人の大法官は「改正憲法訴訟法の定足数の要件を満たせないこと」を評議への参加拒否の理由としているが、これは改正憲法訴訟法が合憲であり、有効な法律だと自ら判断したことを前提としている。しかし、大法官が憲法法廷の評議に参加せずに3人のみで合憲性を判断できるとする実定法上の法的根拠は存在せず、3人の大法官は評議への参加を恣意的に拒否していることになる。ましてや判事(大法官)が法廷の審議に参加せずに係争中の事案について「私的」な声明を発表するなど異常事態と言わざるを得ない。そもそも、憲法訴訟法という手続き規範の合憲性を判断するために、審査対象の当該規定を審査の手続き規範として用いることはできず、旧法の基準に従って合憲性の審査を行うのが論理必然だろう。現任の大法官は自らがどのような論理的立場を採用するかは別にして、少なくとも全員参加で評議に臨むべきだった。こうした論理は、民進党支持か国民党支持かという党派性とは無関係に成り立つ。
例えば、馬英九政権期(2008~16年)に任命されすでに退任している元大法官・黄虹霞は、YouTube番組のインタビュー[8]で、改正憲法訴訟法と憲法法廷の機能停止危機について強い懸念を表明している。黄によれば、2019年までの仕組みでは、大法官の定足数に関する高い要件の下で、多数の違憲判断が少数の合憲判断によって覆(くつがえ)されるという不合理が生じていたために不適切だとして旧憲法訴訟法の規定にまで緩和された。立法院が今回正当な理由なく定足数や合意要件を再度厳格化することは司法機能の阻害にあたるという。立法府が法改正を通じて憲法法廷を機能不全に陥れる行為は、権力分立の原則を破壊し、市民の基本権を脅かす憲政危機であり、許されない暴挙だと批判した。評議への不参加を表明している3人の大法官についても、大法官が政治的圧力を恐れて審議をボイコットするのは職務放棄であり、たとえ少数派となっても評議に参加して議論を尽くし、判決に付随した反対意見書を記すか、辞任をもって抗議すべきだと訴えている。