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Commentary

憲法法廷の機能不全が映す台湾憲政の危機
立法院による問題だらけの議事手続きと司法機能の麻痺

平井新
東海大学政治経済学部特任講師
政治
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憲法法廷の機能が早期に回復されるかどうかが、今後の台湾政治の鍵となる。写真は台湾の立法院本会議で衝突する国民党や民進党などの立法委員ら。2024年5月17日。(共同通信社)
憲法法廷の機能が早期に回復されるかどうかが、今後の台湾政治の鍵となる。写真は台湾の立法院本会議で衝突する国民党や民進党などの立法委員ら。2024年5月17日。(共同通信社)

しかも、2019年に旧憲法訴訟法の制定による大法官制度の改革は、当時立法院の多数派だった民進党が主導したとはいえ、国民党も含めた超党派で進められたものだった。2019年当時の立法院が改正理由として挙げたのは、旧法の3分の2の出席・同意の要件では、過半数の大法官が違憲と判断しても違憲宣告ができないこと、これにより事案の審理が遅延すること、当該要件規定が比較法上、憲法審査における過半数という多数決の通例に合致していないことなどを指摘していた。

改正から6年を経て、こうした理由に合理性が無くなったわけでもない。にもかかわらず、2024年の再改正はこうした改革の流れに逆行したものである。実際、野党により再改正案が提起された直後の2025年10月には、民間司法改革基金会、台湾人権促進会、公民監督国会連盟、国際特赦組織台湾分会など台湾の19の市民団体がこの改正に反対する共同声明を発表していた[3]。これらの団体は野党が「立法院職権行使法」の憲法審査の進行中というタイミングで改正を急いでいる点を指摘し、司法への政治的圧力だと批判して、立法院に対して憲法訴訟制度を政治闘争の道具とせず、改正案を通過させないよう強く求めていた。

結果として、既述の通り改正憲法訴訟法は立法院で2024年末に可決成立して、憲法法廷は2025年12月まで300日以上も機能不全を起こして審理を停止することになった。加えて、2025年10月、現任大法官8人のうち楊惠欽、蔡宗珍、朱富美の3人が声明を発表し、改正憲法訴訟法が定める評議の要件は大法官10人であるため、現在の8人体制では憲法法廷の組織自体が違法であり、いかなる評議・判決も違法となると主張した[4]。そして有効な法律である改正憲法訴訟法は大法官に対して拘束力を有しており、大法官にはこれを恣意(しい)的に適用しないとする権限はないとして、違法な評議への参加を拒否する姿勢を示した。こうした状況下で、行政府と立法府の双方が違憲の疑いのある行為をエスカレートさせつつ対立を深めているのである。

定員の3分の1で開廷・可決する事態に

三権分立が麻痺状態に陥った状況の中、台湾の憲法法廷は2025年12月19日についに再開し、2024年末に野党主導で改正した憲法訴訟法のうち、大法官定数(15人)に欠員が生じた場合に総統による2ヶ月以内の追加指名義務、大法官の評議参加人数・違憲宣告人数の下限(10人・9人)の設定、施行日規定などを含む条文について、「立法手続きの重大な瑕疵(かし)」、「正当な立法手続きへの違反」、「権力分立原則への違反」などを理由に違憲・失効とした[5]。

まず、上述の通り新法は憲法法廷の評議に大法官10人以上の参加を要求するが、現任の大法官の総数は8人にとどまる。今回の違憲判断を下した憲法法廷に参加した5人の大法官は、新法自体が違憲審査の対象であるため新法に拘束されず旧法を適用してできると判断した。憲法訴訟法は、憲法法廷の運用を定める手続き法であり、新法自体の合憲性の審査のために新法を適用して審査したのでは、循環論法に陥るためである。

しかし、たとえ旧憲訴法に依拠しても、大法官の現任総数の3分の2以上が評議に参加しなければならない。すなわち現任8人のうち6人以上が評議に参加する必要があるが、上述の通り3人が評議への参加を拒絶しているため、実際に評議に関与した大法官はわずか5人にすぎず、旧法にもとづいても定足数を満たせず、やはり憲法法廷は開廷できないはずである。

そこで本判決は、評議参加を継続的に拒絶する大法官について、欠員や回避者(利益相反による不参加)と同様に「現任総数」から除外すべきであるとの法理を示した。評議への参加を拒絶している3人を現任総数から控除すれば現任総数は5人となり、その3分の2以上、すなわち4人以上で評議が可能となる。判決はこの論理により、5人の大法官だけで本件を審理し判決を下した。

違憲の理由は主に二点ある。第一に、立法院における審議の手続き上の瑕疵である。改正条項は当初の提案とは全く異なる内容が本会議での逐条討論時に提出され、実質的討論も正式な票決に付されもせずに当日中に可決された。これが憲法の定める公開透明原則及び討論原則に明白かつ重大に違反するという。第二に、権力分立原則違反である。総統に対して2ヶ月以内の大法官補充指名義務を課す規定は、憲法が規定していない義務を総統に課すものであること、また大法官に対する評議の定足数の下限規定は適切な補完措置を欠き、立法院が人事同意権を行使しないことで憲法法廷を麻痺させることを可能にする。憲法は政治部門の作為・不作為により司法院の憲法解釈機能が中断することを許容しておらず、改正条項はいずれも違憲だとした。

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