Commentary
憲法法廷の機能不全が映す台湾憲政の危機
立法院による問題だらけの議事手続きと司法機能の麻痺
2024年の立法院(議会に相当)選挙の後、最大野党の国民党と第三勢力の台湾民衆党は立法院で連合を組んだ。議席の過半数を占めたことで、立法院職権行使法、公職人員選挙罷免法、財政収支区分法、憲法訴訟法の改正、史上最大規模の予算削減など、台湾世論を二分する重要法案を次々に強行採決で成立させてきた。
少数与党の議会で強行採決が常態化
もちろん、議会の多数派が議席数にもとづいて重要法案の主導権を握ること自体は民主政治の常態と言えるが、立法過程の正当性や、憲法秩序との整合性が疑われる案件を積み重ねれば、統治の正統性そのものが毀損(きそん)するだろう。民主化(ここでは2000年代前半から2010年代後半ごろまでの20年程度を指す)以降の台湾の立法過程では、委員会での条文ごとの審査、政党間協議、本会議での討論と採決という段階を経る際に、議会の少数派の発言機会はまがりなりにも保障されてきた。ところが、現在の野党主導の議会では、与党提案の法案は手続き段階で後回しにされ、委員会での実質審査も行われず、与党委員の発言時間は削減され、政党間協議も形骸化している。しかも、本会議での票決直前に野党側が「再修正動議」として新たな改正法案を奇襲的に提出し、与野党の議員が内容を確認する十分な時間すらないまま強行採決する手法まで常態化しつつある。
台湾憲法法廷の危機と判決の余波
より深刻なのは、憲法法廷(憲法裁判所に相当)の制度そのものを政治が動揺させている点である。2024年10月に憲法法廷が同年5月に成立した改正立法院職権行使法に一部合憲・一部違憲の判決[1]を下し、総統に対する「国情報告[2]」の要求権限、公務員への質疑に関する罰則、調査権にもとづく処罰規定、公聴会での証言強制などが違憲とされた。議会の政府監視は政治的責任を問うものであり、議会には総統に議会での報告を命じる権限や公務員への法的制裁を行う権限までは認められないという権力分立原則にもとづく判決だった。
この憲法判断に対する「報復」として野党は憲法訴訟法改正案を提出し、2024年12月に可決成立した。憲法訴訟法改正では、大法官の「10人以上の評議への参加」と「違憲判決時の9人以上の同意」という具体的な人数の下限を導入することで、違憲宣告を一段と難しくした。しかも、2024年10月に任期満了を迎えた7人の大法官の後任人事の審査では、立法院は頼総統が指名した大法官の人事案をことごとく否決した。こうして現任大法官の人数(8人)が改正憲法訴訟法の定める定足数の10人を下回り、憲法法廷が開廷不能に陥った。台湾の違憲審査制度は、与野党の政治対立に巻き込まれ、深刻な機能不全を引き起こしたのである。
民主的な地歩を固めてきた司法院大法官制度
そもそも、台湾における憲法の番人である司法院大法官の制度は、民主化を経て制度改正を重ねながら、より民主的なものへと改革されてきた。大法官の定員は一貫して15人を前提に運用されてきたが、審理の形式や評議が成立するための定足数などにおいて、より公開性・専門性・実効性を持つ制度へと変遷してきた。旧法の大法官審理案件法では、憲法解釈には大法官の「現任総数の3分の2出席」と「出席者の3分の2の同意」という高い合意要件のもとで憲法判断を下す仕組みが採られていたが、この制度には二つの問題が存在した。第一に、可決要件が出席者の3分の2である以上、その裏返しとして出席者の3分の1を超えるにすぎない少数の大法官が過半数を超える多数判断を封じることができるという、少数派に事実上の拒否権を与えるような構造である。第二に、可決に必要な同意票数が審議に出席する大法官の人数によって変動するため、憲法判断の成立要件が一定せず、制度としての安定性・予測可能性を欠くという問題である。これらの点から、法曹関係者や人権団体など少なくない識者から民主的ではないと批判されてきた。
これに対し、2019年制定・2022年施行の憲法訴訟法は、従来の大法官会議を憲法法廷へと制度変更し、「現任総数の3分の2以上が評議に参加」したうえで「現任総数の過半数同意」で判決を出す仕組みへと改めた。これは憲法判断の敷居を単純に引き下げたものではなく、出席者数の増減によって少数派の否決力が変動するという旧制の構造的問題を廃し、民主的多数決における最も基本的な正当性の根拠である過半数の意思を憲法審査の制度の核心に据え直したものである。実際、新制度のものとで、同性婚の法制化(2017年)、平地先住民族シラヤ族の身分保障(2023年)、死刑適用要件の厳格化(2024年)など、人権保障の重要判断が相次いで示されてきた。