Commentary
四中全会後も続く習近平政権の混乱
予断を持たず、慎重に事態の展開の見極めを
2025年10月下旬、北京で中国共産党の20期中央委員会第四回全体会議(以下、四中全会)が開催された。この四中全会では、5カ年計画が主要議題となったが、依然として続けられる反腐敗闘争の影響で、中央委員会に多くの欠員が生じ、また、多くの欠席者が出たことが注目を浴びた。
本来の論点は5カ年計画の策定
四中全会の本来の論点は、次の年から始まる5カ年計画の策定であった。計画経済体制は終焉(しゅうえん)を迎えたが、経済発展戦略としての計画は依然として5年ごとに作成されている。計画はかなり包括的であり、第15次5カ年計画の詳細についてここで論じることは避けるが、以下のような特徴を挙げることができる(編集部:関連記事として丸川知雄「中国経済の次の5年へ向けた展望」もご覧ください)。
第一に、科学技術の発展に大きく重点が置かれている。改革開放以来、中国は労働集約型の製造業を中心に、「世界の工場」となることで経済発展を実現してきた。しかし、それはもはや過去になりつつある。研究開発力が高まり、中国自身の技術力の向上が目覚ましい。通信技術やドローンなど、今やハイテク産業においても世界をリードする存在となっている。そのような状況において、科学技術、イノベーションが経済発展戦略の重点となるのは自然だろう。発表された計画の約2万字の全文には、「科技」(科学技術)が熟語を含めて46回、「創新」(イノベーション)が同じく61回も言及されている。
第二に、関連して、発展のクオリティの向上が強調されている。中国の経済発展戦略は長らくスピード重視で、粗製濫造(そせいらんぞう)の傾向が否定できなかった。しかし、近年はそのような非効率な発展を改め、質の高い発展が追求されるようになっている。計画全文の中でも「高質量」(ハイクオリティ)が25回言及されている。ただ、どのようにハイクオリティの発展を推し進めるのかについては具体性に欠けると言わざるを得ない。
第三に、安定が繰り返し強調されている。世界の成長エンジンであった中国においても、経済の減速は明らかであり、かつての高度成長を継続することは不可能となった。上述のクオリティの強調も経済の減速という現実を反映している面がある。成長の減速を取り繕うため、あるいはそれによる社会不安を打ち消すために、党や政府は、安定を強調せざるを得ないのだろう。計画では、「穏」(安定)という文字が43回も使われている。
経済減速への不安も滲(にじ)むが、計画全体としては、積極的な論調が繰り返され、中国の科学技術力、産業高度化、そしてさらなる発展への期待と自信が表現されていた。
軍の中で何が起きているのか
本来の議題である5カ年計画以上に、軍における反腐敗闘争の展開は世界中の注目を浴びた。2023年のロケット軍指導部の更迭(こうてつ)と李尚福国防部長の失脚以来、軍における汚職摘発が強力に進められ、続々と表舞台から姿を消す者が出ていた。その上で、四中全会の直前に開催された政治局会議において、何衛東(中央軍事委員会副主席兼政治局委員)を含む9名もの上将の党籍剥奪処分が決定された。特に現役の制服組である中央軍事委員会副主席の失脚は林彪(1971年)までさかのぼる異例の事態であり、衝撃は大きかった。すでに軍の混乱は前代未聞のレベルであるが、この混乱が収まる気配はない。
2022年の党大会で発足した中央軍事委員会には、7名のメンバーがいた。国防部長の李尚福、政治工作部主任の苗華、そして副主席の何衛東が次々と解任され、四中全会時点で残ったのは習近平(主席)、張又侠(副主席)、張昇民(規律検査委員会書記)、劉振立(連合参謀部参謀長)のわずか4名だった。会議では、張昇民が副主席に昇格したが、苗華の後任人事は行われず、中央軍事委員会の補充もなされなかった。李尚福の後任として2023年12月から国防部長を務めている董軍は中央軍事委員会入りを果たせず、通常国防部長が兼任するはずの国務院国務委員にも就任していない。依然として異例の軽量級の国防部長となっている。
さらなる混乱を予見させるのは、四中全会における欠席者の多さである。2022年の発足時点で中央委員には44名の軍関係者が含まれていた。2024年の三中全会で2名が粛清され、残り42名となっていたが、四中全会に出席したのは、わずか15名であった。党籍剥奪された者以外にも、多くの幹部が会議に出席できない状態に置かれていること、すなわち取り調べを受けている、あるいはすでに拘束されていることが推察される。中央委員の欠員が出た場合、候補委員から補充がなされ、四中全会でも11名が昇格したが、候補委員のリストのうち、上位にいる軍関係者5名がスキップされた。この5名は会議自体を欠席している。候補委員も同様に失脚状態にある者が少なくない可能性を示唆している。
特に混乱が大きいのはロケット軍である。2015年に習近平の肝煎(きもい)りで設立された軍種だが、歴代の司令員4名全員が失脚した。しかし、ロケット軍にとどまらず、苗華の政治工作部門はもちろんのこと、陸軍、海軍、空軍、武装警察などの各軍種、さらに各戦区の幹部も失脚しており、もはや特定の部門を標的にしていると言える状況ではない。また習近平の側近の一人で、中央軍事委員会弁公室主任などを務めた鍾紹軍にも何らかの問題が生じた可能性がある。鍾紹軍は2024年に国防大学政治委員の職に移ったことが確認されており、四中全会にも出席していたが、駐北朝鮮大使館のウェブページの活動報告において、国防大学政治委員が夏志和に交代していたことが明らかとなった。失脚こそしていないものの、すでに実権を喪失している可能性がある。
以上が四中全会前後の状況だったが、果たして、次に紹介するように、四中全会後にもさらなる混乱が続いている。2026年1月に、張又侠、劉振立の摘発が発表された。2022年に発足した中央軍事委員会は7名のうち5名が粛清され、残るは習近平と張昇民の二人のみとなった。このような混乱は文化大革命期の林彪失脚に匹敵するものであり、深刻な状況である。
一体軍の中で何が起きているのか。この連載でも以前言及したように、一連の摘発が習近平の主導のもとで進められているのか、それとも習近平への挑戦として展開されているのかというのは極めて重大な問題である(「止まらない反腐敗闘争と動揺する人民解放軍」)。しかし、習近平への挑戦説、あるいは2025年に流行した習近平失脚説の中心となっていた張又侠が失脚したことで、習近平の地位が動揺しているという説明は説得力を失った。確かに、粛清の対象となった将軍の多くが習近平と関係が深く、習近平に対する挑戦が水面下で生じた可能性も否めない。張又侠も習近平の盟友として知られていたが、対立的な関係に転じた可能性も否定できない。しかし、一連の軍の粛清で、高官のほとんどが失脚しており、習近平に対抗しうる存在はない。とはいえ、軍の内部はブラックボックスであり、外部観察者が得られる情報は限定的である。予断を持たず、慎重に事態の展開を見極めるしかない。
さらに、軍事関連産業、いわゆる「軍工系」の凋落(ちょうらく)も注目すべきである。中央候補委員には複数の国有企業幹部が名を連ねているが、張忠陽(中国航天科技前総経理)、袁潔(中国航天科工前董事長)、温剛(中国船舶前董事長)、余剣峰(中国核工業前董事長)などが四中全会を欠席した。いずれもすでに役職から解任され、失脚が報じられていた。軍の反腐敗闘争に関連していると思われるが、一世を風靡(ふうび)した軍工系も習近平の寵愛を失ったようだ。
党と政府でも続く反腐敗闘争
四中全会では、文官にも複数の欠席者が出た。金湘軍(前山西省長)、藍天立(前広西チワン族自治区政府主席)などすでに取り調べを受けていることが公表された者に加え、劉建超(前中央対外連絡部長)などのしばらく表舞台から姿を消している者もやはり引き続き会議を欠席した。
四中全会後も混乱は収まらない。政治局委員の馬興瑞は四中全会には出席していたものの、年末ごろから公の場に姿を現さなくなり、会議にも欠席し続けている。2025年に新疆の党委員会書記を退任し、閑職にまわされるという噂が流れていたが、今では失脚したことが確実視されている。習近平政権の混乱は深まるばかりである。
*本稿は、霞山会発行『東亜』2025年12月号に掲載された記事を転載・加筆したものである。