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Commentary

高市発言に対抗する中国の「琉球地位未定論」
「台湾地位未定論」への意趣返し

早田健文・本田善彦
『台湾通信』代表・台湾在住ライター
政治
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「琉球地位未定論」と「台湾地位未定論」は表裏の関係にあり、いずれも今後の日本、中国、台湾の関係に影響をもたらすものである。写真は蔡英文新総統(当時)の就任式典で、「台湾独立」と書かれた旗を手にする人たち。2016年5月20日(共同通信社)
「琉球地位未定論」と「台湾地位未定論」は表裏の関係にあり、いずれも今後の日本、中国、台湾の関係に影響をもたらすものである。写真は蔡英文新総統(当時)の就任式典で、「台湾独立」と書かれた旗を手にする人たち。2016年5月20日(共同通信社)

日中共同声明では、台湾に関する部分は第3項にある。「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第8項に基づく立場を堅持する」(外務省)

ここで重要なのが、第二次世界大戦を終結させるため1945年7月26日にアメリカ、イギリス、中華民国の政府首脳の連名において日本に対して発された「ポツダム宣言」の第8項である。それにはこう書かれている。「カイロ宣言の条項は履行せらるべく又日本国の主権は本州、北海道、九州及四国並びに吾等の決定する諸小島に局限せらるべし」(外務省訳)

そこで、第二次世界大戦中の1943年にアメリカ、イギリス、中華民国の首脳がカイロ会談で合意し発表した対日方針「カイロ宣言」を見ると、こう書かれている。「右同盟国の目的は日本国より1914年の第1次世界戦争の開始以後に於て日本国が奪取し又は占領したる太平洋に於ける一切の島嶼を剥奪すること並に満洲、台湾及澎湖島の如き日本国が清国人より盗取したる一切の地域を中華民国に返還することに在り。日本国は又暴力及貪慾に依り日本国の略取したる他の一切の地域より駆逐せらるべし」(外務省訳)

ここでは、「中華民国に返還」と書かれている。これら一連の事象をどう解釈するかは、論議があるところなので、本稿では論じない。ただ、よく引用される大平正芳外相(当時)の国会発言というものがあるので、ここに引用しておきたい。この談話をめぐっても異なる解釈が存在することは承知している。しかし、日中共同声明での日本の立場に変更はないと主張するのであれば、当初の立場がどのようなものだったのか、交渉の経緯はどうだったのか、当時交渉に関与した当事者たちの考え方はどうだったのか、改めて確認することは必要だろう。

「次に、台湾の地位に関してでありますが、サン・フランシスコ平和条約により台湾を放棄したわが国といたしましては、台湾の法的地位について独自の認定を行なう立場にないことは、従来から政府が繰り返し明らかにしているとおりであります。しかしながら、他方、カイロ宣言、ポツダム宣言の経緯に照らせば、台湾は、これらの両宣言が意図したところに従い中国に返還されるべきものであるというのが、ポツダム宣言を受諾した政府の変らざる見解であります。共同声明に明らかにされている『ポツダム宣言第8項に基づく立場を堅持する』との政府の立場は、このような見解を表わしたものであります」(外務省「第70回国会における大平外務大臣の外交演説」1972年10月28日)

基本的な知識を踏まえた議論を

本稿では、「琉球地位未定論」「台湾地位未定論」に対して賛否などを論じるものではないことを強調しておきたいが、両者は表裏の関係にあり、いずれも今後の日本、中国、台湾の関係に影響をもたらすものだけに、概略を振り返っておいた。ただ、高市発言を発端として沸騰する日本国内での議論については、少なくとも各論者の主張に賛否を下す前に、その論者がこうした基本的な知識を踏まえた上で議論しているのか、あるいはそうでないのか、まずは判断しておいた方がよかろう。

(注1)中国新聞網2025年11月28日「琉球主権帰属這筆旧賬,是該算算了」(https://www.chinanews.com.cn/gj/2025/11-28/10522963.shtml)最終閲覧日2026年1月6日。以下同じ。

(注2)中琉文化経済協会は現在も存在している。ホームページは「https://srcea1958.com/

(注3)新華網2023年6月4日「賡続歴史文脈譜写当代華章——習近平総書記考察中国国家版本館和中国歴史研究院並出席文化伝承発展座談会紀実」(http://www.news.cn/politics/2023-06/04/c_1129667902.htm

(注4)「閩人」の「閩」は、福建省を指す。

(注5)『星島日報』の原文はすでにリンクが消えている。台湾の中央通訊社が引用したものが残っているので参照できる。「港評:習近平主政後首提琉球 是否涉及主権引関注」(https://www.cna.com.tw/news/acn/202306080031.aspx

(注6)人民網2013年5月8日「論《馬関条約》與釣魚島問題」(http://theory.people.com.cn/BIG5/n/2013/0508/c40531-21399831.html

(注7)『環球日報』2023年5月14日 張海鵬「琉球再議、議什麼」(内容は下記URLを参照https://news.sina.com.cn/pl/2013-05-17/071827148796.shtml

(注8)行政院大陸委員会「民衆対当前両岸関係之看法」民意調査(2025-12-04~2025-12-08)(https://www.mac.gov.tw/cp.aspx?n=F5D47C275B94E4B7

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