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Commentary

高市発言に対抗する中国の「琉球地位未定論」
「台湾地位未定論」への意趣返し

早田健文・本田善彦
『台湾通信』代表・台湾在住ライター
政治
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「琉球地位未定論」と「台湾地位未定論」は表裏の関係にあり、いずれも今後の日本、中国、台湾の関係に影響をもたらすものである。写真は蔡英文新総統(当時)の就任式典で、「台湾独立」と書かれた旗を手にする人たち。2016年5月20日(共同通信社)
「琉球地位未定論」と「台湾地位未定論」は表裏の関係にあり、いずれも今後の日本、中国、台湾の関係に影響をもたらすものである。写真は蔡英文新総統(当時)の就任式典で、「台湾独立」と書かれた旗を手にする人たち。2016年5月20日(共同通信社)

尖閣諸島をめぐる「保釣運動」との関連も

当時、中国側が見せた一連の言動を見れば、習主席がこのタイミングで沖縄に言及したこと自体、唐突なものではない。筆者(本田)自身、日中関係が悪化した場合、中国政府が「琉球地位未定論」を持ち出す可能性を強く予感したできごとがあった。筆者は、2010年代に「保釣運動」(保衛釣魚台。尖閣諸島に対する「中国」の領有権を主張し、その防衛を訴える運動)の活動家に対するインタビューを進める中で、一部の活動家が「沖縄独立運動」に強い関心を示すのを目の当たりにしたことがある。例えば、「沖縄独立」の可能性を論述する龍谷大学経済学部の松島泰勝教授が2013年に台湾でフォーラムに参加した際、会場では松島教授の話を聞きに訪れた複数の保釣運動参加者が確認できた。

このほか、2016年6月に「中華全球華人琉球之友協会」が主催し「中華琉球研究学会」が共催した第1回中華琉球フォーラムが台湾・台北市で開催された。同協会の初代理事長・連石磊(れんせきらい)氏は、台湾での「保釣運動」団体の一つである中華保釣協会のスポークスマンだった。これから見ても、このフォーラムに「保釣運動」団体が関与していたことは明白だった。

フォーラム会場で筆者(本田)が遭遇した中華保釣協会の黄錫麟秘書長(当時)は、以前から多くの活動家が琉球問題に強い関心を持っていたこと、そして将来的に琉球独立運動の活動家らと交流を強化する意向があることを認めた。その上で、「もし日本がアメリカと結託して台湾問題を利用し続けるなら、中国側はいずれ日本の琉球に対する主権に疑問を示す権利がある」と述べた。

このように、「目には目を」にも似た発想はかねてより存在しており、中国政府が日本側の台湾問題への関与を牽制する目的から、「琉球地位未定論」を持ち出す可能性は予見可能だったと言えよう。

複数の中国側の学者らのコメントを総合すると、中国政府は日本側による「台湾問題」に対する「干渉/関与」への対抗策として「琉球問題」を持ち出す可能性は十分にあるものの、琉球に対する中国の主権などを直接的に主張する可能性は、現段階では考えにくい。「琉球地位未定論」が今後、どのような扱われ方をするかは、日中関係、特に台湾をめぐる日本側の対応を中国側がどう受け止め、判断するかによるのではないか。

「中国」には受け入れられない「台湾地位未定論」

さて、「琉球地位未定論」にも関連するサンフランシスコ平和条約で思い起こされるのは、「台湾地位未定論」だ。高市首相が「台湾地位未定論」の影響を受けているだろうことは、その国会答弁からも分かるし、高市首相を支持している言論人たちのこれまでの言説からも分かる。そこで次に、「琉球地位未定論」と関連の深い「台湾地位未定論」とは何かを考察してみたい。

高市首相は2025年11月26日、立憲民主党の野田佳彦代表との党首討論で、「台湾有事」発言に関連して、台湾の帰属については「サンフランシスコ条約で台湾に関する権利権限を放棄しているので、台湾の法的地位を認定する立場にない」と答弁した。これに対して、野田代表は、高市首相が「台湾有事」に関する発言について、「あまり具体例を言わなくなったということは、事実上の撤回をしたと受け止めた」と評した。

しかし、高市首相のこの答弁を受けて中国側はさっそく外交部報道官が、サンフランシスコ平和条約は「中国やソ連など第2次世界大戦の主要当事国を排除した状態で結ばれた」と指摘し、この条約は無効だとの従来の主張を繰り返し、高市首相の答弁を批判した。

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