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Commentary

高市発言に対抗する中国の「琉球地位未定論」
「台湾地位未定論」への意趣返し

早田健文・本田善彦
『台湾通信』代表・台湾在住ライター
政治
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「琉球地位未定論」と「台湾地位未定論」は表裏の関係にあり、いずれも今後の日本、中国、台湾の関係に影響をもたらすものである。写真は蔡英文新総統(当時)の就任式典で、「台湾独立」と書かれた旗を手にする人たち。2016年5月20日(共同通信社)
「琉球地位未定論」と「台湾地位未定論」は表裏の関係にあり、いずれも今後の日本、中国、台湾の関係に影響をもたらすものである。写真は蔡英文新総統(当時)の就任式典で、「台湾独立」と書かれた旗を手にする人たち。2016年5月20日(共同通信社)

高市早苗首相が2025年11月7日、衆議院予算委員会で「台湾有事」が「存立危機事態」になり得るとの答弁を行ったことをきっかけに、日中関係は深刻な緊張状態に陥った。こうした中で、高市政権に対する反発を強める中国は、11月中旬以降、「琉球地位未定論(沖縄帰属未定論)」を持ち出すようになった。

「琉球地位未定論」とは何か

中国の国営・中国新聞社(中新社)は2025年11月28日付で、「琉球主権帰属這筆旧賬,是該算算了(琉球の主権の帰属という古い問題は、そろそろ決着をつけるべきだ)」(注1)と題した記事を配信し、歴史的な経緯を紹介した上で、「一連の国際条約における琉球諸島の主権帰属の位置付けの核心は、日本が固有の主権を有しているという見方を否定し、かつ最終的な帰属を確定していない点にある」との専門家の見解を紹介している。琉球に対して日本は固有の主権を持たないという主張だ。

これまで、日本の言論シーンで「琉球地位未定論」あるいはそれに類する用語を耳にすることは、ほとんどなかったのではないか。多くの人はこの突然の事態に、中国が何を言い出したのか分からず、単なる中国の言いがかりだと感じたのではないだろうか。しかし、この「琉球地位未定論」は、実は過去にも存在していたものである。しかも、台湾の中華民国政府も琉球に対して、大陸の中華人民共和国と同様の立場だったことはほとんど知られていない。本稿ではまず、「琉球地位未定論」とはどのようなものなのか、簡単に考察してみたい。

「琉球地位未定論」のベースには、琉球王国が清(中国)と薩摩(日本)の両属体制下にあった歴史的経緯がある。第二次世界大戦後、敗戦国である日本の戦後処理のためのサンフランシスコ平和条約が1951年に調印されるが、この条約については、日本は沖縄に対する行政権を放棄したが、沖縄の主権の帰属先は未定、つまり沖縄の帰属が明確にされなかったとの解釈もある。サンフランシスコ平和条約の締結国ではない中国政府は、「サンフランシスコ平和条約は無効」との立場から、「琉球の主権は未定」と唱えた。なお、サンフランシスコ平和条約は中華人民共和国政府・中華民国政府ともに調印していない。

これとは別に、台湾にある中華民国は、沖縄が米軍統治下にあった1958年、「琉球」との交流を専門に扱う「中琉文化経済協会」(注2)を設立し、日本本土とは異なる形で沖縄との往来を進めた。同協会は、1972年5月に沖縄が日本へ返還された後も存続し、同年9月の日本と中華民国との断交後も、那覇駐在代表部は「中琉文化経済協会駐琉球弁事処」という名称を使い続けた。この状況は2006年に名称変更されるまで続いた。

つまり、台湾は沖縄に、日本本土とは異なる組織の代表部を設置していたのであり、実務的には沖縄を日本の一部だと認めながら、沖縄は日本本土と別枠なのだとの暗示を続けている。中琉文化経済協会の存在は、国共内戦に敗れて台湾に移った、中華民国政府の沖縄に対する微妙な立場を示すものだった。

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