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Commentary

高市発言にどこか他人事の当事者・台湾
「台湾有事」論議を台湾はどう見ているのか

早田健文
『台湾通信』代表
政治
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台湾、そして両岸関係は、複雑な現状を的確に理解し、冷静に、そして真剣に考えることが重要だ。写真は、台湾と中国の首脳会談から10年の記念行事であいさつする鄭麗文国民党主席。2025年11月7日(共同通信社)
台湾、そして両岸関係は、複雑な現状を的確に理解し、冷静に、そして真剣に考えることが重要だ。写真は、台湾と中国の首脳会談から10年の記念行事であいさつする鄭麗文国民党主席。2025年11月7日(共同通信社)

「1つの中国」を認め合ってきた両岸関係

さて、これまで述べてきたような基本的な予備知識を頭に入れておくと、台湾の状況が比較的にクリアになる。予備知識なしに台湾を論じることは危険である。ただ、台湾に対する理解を分かりにくくしている原因として、台湾の政体のあり方、そして日本語と中国語とで異なる言語感覚がある。

台湾は「中華民国」という政治体制下にある。台湾は「国」だと考えている日本人が多いが、「台湾」という名前の国家は存在しない。中国大陸で誕生した「中華民国」は、国共内戦に敗北して1949年に台湾に逃れて来たものの、今でも中華民国憲法は「1つの中国(一個中国)」の原則を維持しており、領土そのものは変更していない。この点は非常に重要だ。

中国の共産党政権は、台湾に対して「1つの中国」を認めるように要求しているが、国民党にとって中華民国憲法に従う以上、「1つの中国」を認めることは当然のことである。ただし、その「中国」は、中華人民共和国なのか、中華民国なのか。その「中国」の定義を曖昧にすることで、国民党は馬英九政権時代(2008~2016年)に、中国との関係を改善し、発展させた(注8)。つまり、中華人民共和国方式の「1つの中国」に対して、中華民国方式の「1つの中国」も、概念として存在しているのである。

ここで、「中国」とは何かということが問題になる。日本語で「中国」というと、中華人民共和国、大陸中国というのが一般的なイメージだろう。そうすると、台湾は「中国」の外ということになる。しかし、「1つの中国」とは言っても、「1つの中華人民共和国」とは言っていない。中国語の「中国」は、現在の政治状況とは別の概念であり、連綿と続く歴史の「中国」、文化の「中国」、いわゆる広く中華文化の世界だと解釈することが可能だ。

台湾の人口の大部分を占めるのは、時期は異なるがいずれも中国大陸から移民してきた漢民族とその子孫たちだ。彼らが、自分たちが中華文化に属していることを否定することは難しい。そこに解釈の余地を残しているところがミソであり、日本語とは異なる中国語の芸術である。

日本が望むかどうかに関係なく、台湾海峡両岸の双方が良好な関係を構築できるキーワードは、「中国」なのである。そして、台湾と中国は近年においても、対立ばかりを続けてきたわけではないということはぜひ日本の人々にも理解してほしい点である。

「台湾有事」を独り歩きさせる危うさ

近年、台湾と中国との関係が悪化したのは、2016年に台湾の自立性を主張する民進党の蔡英文政権が発足して以降である。蔡英文政権は、「1つの中国」を認めることを拒否した。これに対して中国は、民進党政権との交流を断ち、圧力をかけることになった。蔡英文政権を引き継いだ頼清徳政権になって対立がますますエスカレートし、「台湾有事」がさらに懸念される状況になって現在に至っている。つまり、「統一」(注9)を求める中国の姿勢は基本的に変わらないが、台湾内部の政治情勢の変化が両岸関係に変化をもたらしていると言える。

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