Commentary
高市発言にどこか他人事の当事者・台湾
「台湾有事」論議を台湾はどう見ているのか
最大野党・国民党の反応
一方、中国との関係改善を望む声は常に存在する。そうした人々にとって、高市発言は批判の対象となる。それを代表するのが、最大野党である中国国民党(国民党)の関係者と支持者である。そのうち、馬英九元総統の発言を見てみよう(注5)。
馬英九氏は、高市発言に対して、台湾と日本が友好関係を維持することには賛成だが、との前置きで、「日本政府が性急な言動をとり、台湾を危険な状況に追い込むようなことは歓迎しない。これは台湾の人々が決して望むものではない」「日本の右翼的な軍国主義の復活を連想させるとの受け止めも避けられない」などと述べた。そして、「両岸問題は外国に委ねるべきではなく、両岸自身が話し合って解決しなければならない。両岸の中国人には、互いの相違を平和的に解決するだけの知恵と能力がある」と強調した。
国民党と民進党との最大の相違点は、やはり中国に対する向き合い方である。中国との対立を深める民進党に対して、国民党は中国との関係改善による両岸関係の安定・発展を求めている。中国とのパイプが切れている民進党に対して、国民党は活発な交流チャネルを持っている。
2025年10月に当選した国民党の鄭麗文主席は、頼清徳総統が中国に対してトラブルメーカーにならないよう呼びかけたことに対して、「疑いようもなく火に油を注ぎ、機に乗じた政治的操作であり、平和の維持には何ら寄与しない」と批判した。そして、「台湾が無事なら、日本も無事だ。台湾海峡は平和であるべきで、戦争を望んではならない。これは地域、さらには世界にとっての共通の願いだ」と語った(注6)。
2024年の総統選挙で、国民党の得票率は約33%で、政権奪回に失敗した。しかし、立法院では第一党であり、第二野党の台湾民衆党(民衆党)と連携して過半数を確保し、主導権を得ている。一方、民衆党は、総統選挙での得票率は約26%だった。国民党と民衆党を合わせると60%で、民進党を上回る。総統選挙で両党は候補の一本化に失敗し、そろって敗北したが、その後、議会では協力関係を確立し、民進党に対抗している。
第三勢力・民衆党の反応
民衆党は、2大政党である民進党、国民党のいずれをも嫌悪する、主に若い層からの支持を得ている。2大政党と違ってイデオロギー色は薄い。黄国昌主席は、高市発言による騒動が続く11月末に党青年団を率いて日本を訪問し、日本の各主要政党やシンクタンク、マスコミと交流した。黄国昌主席は出発前にこう語っている。「中日関係の緊張や対立が深まる状況の中で、台湾は衝突や対立の中心や導火線になるべきではなく、むしろ地域の調和を保つためのバランス点、そして橋渡しの役割を担うべきだ」(注7)。
各政党の立場の違いは、それぞれの経緯を経て形成されたものである。中国に対抗して独立を目指す民進党は善、中国と良好な関係を求める国民党は悪といった、日本によく見られる善悪論で二分できるものではない。台湾社会は非常に複雑であり、政治的、社会的に深い亀裂がある。さらに、経済界は民進党政権に対して、中国との対話を進めるよう呼びかけている。そして、政治に関心の薄い人たちは、冒頭のような「迷惑だ」という感想となる。
ただ、そのいずれもが、高市発言が招いた騒動を他人事のように眺め、当事者意識が薄いのはなぜか。「台湾人は長年ずっと脅しを受けてきた。多くの人はもう慣れっこになっていて、慌てることはないのだ」。こう語るのは、筆者の友人である50歳代の大学教授だ。