トップ 政治 国際関係 経済 社会・文化 連載

Commentary

「第七世代」若手幹部の登場
2年後の党大会を見据えた人事が活発化

李昊
東京大学大学院法学政治学研究科准教授、日本国際問題研究所研究員
政治
印刷する
2027年の党大会を控えて、各部門や地方では人事異動が活発化し、1970年代生まれの「第七世代」が次々と昇進している。写真は第20回中国共産党大会の閉幕式にマスク姿で出席する人たち。2022年10月22日(共同通信社)
2027年の党大会を控えて、各部門や地方では人事異動が活発化し、1970年代生まれの「第七世代」が次々と昇進している。写真は第20回中国共産党大会の閉幕式にマスク姿で出席する人たち。2022年10月22日(共同通信社)

2027年の党大会を控えて、各部門や地方では人事異動が活発化している。習近平政権下において、若手幹部の昇進が遅れていたが、ここにきて次々と1970年代生まれの「第七世代」が昇進している。

政治エリートの「世代」

中国のエリート政治において、「世代」が重要な意味を持つことは広く知られている。「改革・開放」以来、定期的な権力継承が行われるようになり、2002年以後は、幹部が党大会時に68歳を超えると引退するという68歳定年制の不文律が生まれた。幹部を年齢によって世代に分けることが広く行われ、江沢民(1926年生まれ)を第三世代とすると、1940年代生まれの胡錦濤、温家宝らが第四世代、50年代生まれの習近平、李克強らが第五世代となる。各世代の有望株は早くから抜擢(ばってき)を受け、来たる権力継承に向けて経験を積む。

1960年代生まれの第六世代である胡春華と孫政才は、2012年に政治局入りし、順調であれば、17年に政治局常務委員会(最高指導部)入り、22年に世代交代というスケジュールが想定されていた。しかし、孫政才は2017年に失脚し、同年の党大会では後継者指名が行われず、22年の党大会では、胡春華が政治局委員から中央委員に降格、習近平が総書記に留任という事態となった。最高指導者の定期的な世代交代という慣習はもはや過去のものとなった。習近平がいつ、どのような形で退任するかは不明で、第六世代と呼ばれた者たちの将来も不透明だ。

第六世代に限らず、若手幹部の昇進が全体的に遅れていることも指摘しなければならない。胡錦濤は1992年に49歳の若さで最高指導部入りを果たし、習近平と李克強が政治局常務委員となったのは50代前半だった。しかし、2022年の党大会で、1970年代生まれの第七世代は一人も中央委員にすら選出されなかった。とはいえ、人間は老いていくもので、何らかの形で世代交代を進めることは不可欠である。党大会を2年後に控え、ようやく第七世代の昇進が実現している。

正部長級の第七世代若手幹部

2025年9月末現在、正部長級(日本の大臣級にあたるが、人数はおそらく300人を超える)の役職にある第七世代の若手幹部は6名である。李雲沢(国家金融監督管理総局党委員会書記兼局長)、阿東(共産主義青年団中央書記処第一書記)、劉捷(浙江省長)、盧東亮(山西省長)、韋韜(広西チワン族自治区政府主席)、劉小濤(江蘇省政府党組書記・同省党委員会副書記)である。

李雲沢は金融業界出身であり、行政経験は多くない。第七世代初の正部長級に昇進したが、役職は権力の中枢に近いわけではない。阿東は、領有権をめぐって係争中の南シナ海の西沙諸島・中沙諸島・南沙諸島を管轄する海南省三沙市の市長を務めた経歴を持つ。共産主義青年団(共青団)トップは、かつて胡錦濤、李克強、胡春華らが務めた登竜門だったが、習近平に冷遇され、大きく力を落としている。その意味でも、将来性を期待されているわけではない。また、阿東は少数民族の回族出身である。

中国において、最高指導者へのキャリアパスの王道は、地方指導者である。江沢民、胡錦濤、習近平ら三代の総書記をはじめとして、大半の政治局常務委員は地方行政経験を積んだジェネラリストたちである。その意味で、2024年末より、党委員会書記に次ぐ地方のナンバー2である省長や、少数民族自治区の政府主席クラスに第七世代が立て続けに就任したことは重要である。ただ少数民族自治区においては、政府主席に少数民族出身者が就くことが慣例となっている。広西のポストは前任者の藍天立が5月に失脚した結果、空席となっていた。その意味では、急遽(きゅうきょ)就任した韋韜(チワン族)は別枠とも言える。

少数民族自治区の政府主席経験者は多くの場合、最終的に政治協商会議副主席のような名誉職に就く。浙江省長の劉捷と山西省長の盧東亮、まもなく江蘇省長になる劉小濤らは間違いなく、次世代指導者の有力候補となろう。劉捷は湖南省、江西省、貴州省を経て、浙江省に移った。早くから注目されており、2024年12月に第七世代最初の省長となった。盧東亮は第七世代の中でも1973年生まれで、とりわけ若い。4月に省長の金湘軍が規律違反で摘発されたことで、急遽(きゅうきょ)進められた人事であると思われる。劉小濤は、江蘇省長の許昆林が遼寧省党委員会書記に異動したのを受けて、9月末に江蘇省政府党組書記に就任した。まもなく正式に省長に就任すると思われる。広東出身で、同省の茂名、潮州、浙江省温州、江蘇省蘇州など沿岸地域の大都市でキャリアを積んできた。

後に控える第七世代の有望株

地方のナンバー3である党委員会副書記にも第七世代が次々に就いている。2025年8月現在、諸葛宇傑(湖北)、時光輝(内モンゴル)、朱忠明(上海)、楊晋柏(海南)、郭寧寧(福建)、謝衛江(湖南)がいる。この中で、諸葛宇傑と時光輝は早くから注目されており、昇進も早かった。次期指導部の有力候補であろう。

現在の地方指導者は1960年代生まれ、特に1965年から69年に生まれた者が中心となっている。一部はすでに中央委員となっているが、次の党大会で更なる昇進が期待される。代表株は、周祖翼(福建省書記)、趙一徳(陝西省書記)、殷勇(北京市長)、許昆林(遼寧省書記)などである。

一方で、地方の党委員会常務委員では、すでに第七世代が大勢力となっており、上で紹介した者以外にも、近いうちに昇進が期待される幹部が多く見られる。注目度が高いのは、例えば、劉強(山東省済南市書記)、劉洪建(雲南省昆明市書記)、費高雲(安徽省合肥市書記)、夏林茂(北京市常務副市長)、崔永輝(福建省アモイ市書記)、周紅波(江蘇省南京市書記)、曹立軍(四川省成都市書記)などである。

中央各部門でも、第七世代が主力となっている。知名度が高いのは、外交部副部長の華春瑩、民政部副部長の胡海峰(胡錦濤の息子)あたりだ。ただ、地方幹部に比べると、有望株が見えづらく、今後の展開はわからない。もっと若い幹部に目を向けると、現状1975年以降に生まれた幹部では、任維(チベット自治区政府常務副主席)をはじめとして、十数名が副省長や副部長レベルの任に就いていることが確認できる。1980年代生まれの「第八世代」では現在、省・部の一つ下のレベル、庁局級(市長など)に就いた者が十数人いるようだが、抜きん出た存在はいない。

目立つ企業出身者の台頭

上で紹介したような第七世代若手幹部の顕著な特徴として、企業出身者が多い。例えば、李雲沢、郭寧寧、劉強は銀行、劉捷、盧東亮、韋韜らは金属工業、楊晋柏と謝衛江は電力産業出身である。いずれも中国において伝統的に重要とされる産業である。もちろん、それ以外に末端の公務員からキャリアを始め、一歩一歩昇進を重ねてきた者も依然多い。

一連の若手幹部の昇進は、次の党大会を見据えてのことだろう。拙稿「前代未聞の政治局委員の役職交代」で石泰峰と李幹傑の役職交代について紹介したように、人事を司(つかさど)る中央組織部長の交代があったことも指摘しておく必要がある。現状この部長交代の影響は不明だが、若手幹部の昇進の活発化を誘引する可能性は否定できない。

*本稿は、霞山会発行『東亜』2025年9月号に掲載された記事を転載・加筆したものである。

ご意見・ご感想・お問い合わせは
こちらまでお送りください

Copyright© Institute of Social Science, The University of Tokyo. All rights reserved.